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「そうか、あのじいさん、死んでから立て壊してなかったもんな……」

土地勘のない獄寺に、説明するように。山本がその家とおじいさんについて、軽く説明をする。物心ついたときからずっとおじいさんだけだったこと。頑固そうで、偏屈なおじいさんはとても恐ろしかったこと。そして、おじいさんが風のうわさで亡くなったと聞いたが、その家はしばらくその場所に建ち。手入れのされない家はみるみるうちに朽ち果てて、倒壊のおそれがあったと山本の父が口にしていたのを聞いたこと。


「まあ、壊したくても壊せなかったから」


女生徒がそう、口にしながら自身の鞄の中身を漁っている。下敷きや、教科書、辞書を出しては「ちがうな」とひとりごとをつぶやきながら鞄から出してはしまっている。山本は、女生徒の言葉におじいさんのことを知っているのかと首を傾げた。どういう意味かと、問いかける。
鞄を漁っていた女生徒は「これでいっか」と妥協する口調で、取り出したのは封の空いていないガチャポンのケースで。密封されたセロファンを爪ではがしながら、中のものを取り出そうとする。


「あの家にいたの、おじいさんだけじゃなかったし」


ガチャポンのケースが開いて、中からは有名なゲームの小さなラバーストラップが出てきた。ビニールから取り出すと、ツナに差し出してくる。「右手」と促され、右手でそれを受け取れば「ずっと持ってて、離さないで」と口にした。


「ちょっと待ってくれ。じいさん以外の人なんか見たことないし、親父だってあそこに住んでたのはじいさんだけだって」
「あの、このストラップって……、」
「ていうか、お前なにもんだ」


山本、ツナ、獄寺が各々質問を投げかける。女生徒は「んん」とうなり、眉をしかめた。
山本を見て「その話は長くなる」と。獄寺を見て「C組の神崎」と。それからツナを見て、


「気休めだけど、私が持ってたものってのが重要。持続性はないけど今日をやり過ごすくらいには大丈夫だから」


明確な答えを与えられたわけではない。ぶっきらぼうにも思えるその口調が、すっかり落ち込んでいるツナを言葉を選びながら元気づけようとしていることはわかる。ストラップを握りしめて、何度も頷いた。
ほどなく、始業前のチャイムが校舎に鳴り響きこの場の解散を余儀なくされた。去り際に「放課後に迎えに行くから」と言われて、ツナは放課後をまだかまだかと待ち望みながら授業を受けるのだった。


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