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 美子が眠っていた数日の出来事のはなしをBGMに、美子は自分のことだというのに、夢の出来事のような素振りではなしを聞いている。それが事実、美子にとっては夢の出来事で、現実からはかけ離れた物語のような世界に気づいたらいるのだから仕方がない。
数日間も長い間眠っていたこと、ココヤシ村でのこと、美子自身も薄々気づいていた能力のこと。ナミはひとつひとつ丁寧に噛み砕いて話してくれていた。美子が口にした白いぶどうは、この世界でいうところの「悪魔の実」という代物ではないかということ。悪魔の実を口にしたものは特別な能力と引き換えにカナヅチになってしまうらしい。言われてみれば、確かに泳げなくなっていたなあと考えていると。先程美子に話しかけてくれた男の子、名はルフィといい、この海賊船の船長だという。彼は、にししと笑い「イッショだなー!」と口にした。

「一緒?」
「ああ、俺も悪魔の実食ったんだ」
「ほへえ」

能力者か否かはパッと見た印象ではわからない。自分のことにしてもそうだけど、見た目での変化はないものなのかなあと、ピンとこない様子で不思議がる美子に。ルフィは自分の口の両端を人差し指で引っ張り伸ばして見せた。「きゃあ!」と美子の驚きの声が上がる。おおよそ人間の皮膚が伸びるであろう範囲からは逸脱して伸びている。

「わたしも?わたしも伸びるの!?」

悪魔の実という、異端の能力を手に入れたものを気味悪く思う人間は多いが美子にはそれが見られない。夢のなかの世界はそういうこともあるのだなあ、と、呑気なのか、警戒心もなければ先入観もないようすで興味深げに自分の頬を引っ張ってみせる美子に、ナミは苦笑いまじりに笑う。全く毒気が見られない彼女に、ナミの正面に座っていたゾロやウソップから警戒心が薄れたのが見てとれた。


「悪魔の実の能力はひとつひとつ違うのよ。ルフィが食べたのはゴムゴムの実。ゴム人間になっちゃう実ね。けど、美子は…、」
「わからないの?」
「うん、聞いたこともないし。悪魔の実が載ってる図鑑もあるんだけど、白い実なんて載ってなかったし、聞いたこともないし、少し特徴からも外れてるのよね……」


悪魔の実は、総じて果実の見た目で、果皮には唐草模様がついているらしい。しかし、美子が口にしたぶどうと思しき果実は唐草模様ひとつないツルリとした真珠みたいに光沢のあるものだ。
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