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 夢のような、夢を見ていた。
砂糖菓子にまみれて、王子様が出てきて、宝石にかこまれて。そんな甘ったるい、お花畑のような夢ではない。そこでは確かにストーリーがあり、痛みがあり、美子の想像からはかけ離れた人の意思があった。恐ろしい出来事になすすべもなく巻き込まれ、最終的には紐無しバンジーを遂げた夢のなかの美子はあの後はたしてどうなったのだろう。落下するジェットコースターに乗ったときのような浮遊感に見舞われて、飛び起きれば、父が運転する車の後部座席に寝かされていた。「あんたはもう、昔から一回寝ると起きないんだから」と美子が起床するやいなや、母の呆れた声が降ってくる。最後の記憶を必死にたぐり寄せて。

ーーああ、そうか、おばあちゃんのお葬式のあと、部屋で寝ちゃってたんだ

と、思い出す。
その日、家に帰ってきて、自分の部屋の柔らかな布団に包まりながら、美子は深い眠りに落ちた。次の日目覚めれば、いつもと変わらぬ自分の部屋の光景に、やはりあれはいっときの夢だったのだと思っていた。





次の日も、その次の日も、美子は夢を見なかった。変わらぬ日常を惰性でサイクルしていく。穏やかな日常は夢の中のことも、おばあちゃんのことも、砂時計みたいにゆるやかに、痛みをなくしていく。


「隣のクラスのあの子がまた彼氏変えたらしいよ」

「理科のせんせ、見え見えのズラやめたらいいのにね」

「サッカー部のセンパイ、かっこいいよねえ。あたし、狙っちゃおうかなあ」

「親がさ、ああしろこうしろってうるさくて」

「新作の化粧品じゃん。どう?使い心地は?」


あっちこっちにとぶ話のなか、いつものように美子は笑って。会話に遅れないように必死に情報を集めて、アンテナはきっちり辺りに張り巡らせる。楽しいときもあるけれど、馴染めないなと思う空気に気持ちが少しずつ削られていく。
ふと、頭によぎるのは夢の中で出会った女の子、ナミの姿だ。ナミと話したとき、あまり息苦しさをおぼえなかった。海図や知らない土地のはなしと、お金の使い方。ゴシップじゃない、愚痴じゃない、馴染みのない恋愛のはなしでもない。知らない知識を与えられて、分からないことも多かったけれど、純粋に関心をした。
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