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体は無抵抗に地に迫ってきている。美子の体はこのまま行けば地面に打ち付けられる。
「美子…!!美子!!」
走っても、手を伸ばしても、届かない。
ナミの頬を撫でる風がするりと色を変えた。今まで肌に感じたことのない、急激な気温の変化。アーロンパーク近くの林からけたたましく鳥の鳴き声が聞こえて、それはいうなら台風のような、それよりも激しい突風が渦になってアーロンパークを横切っていく。渦になったハリケーンは瓦礫を巻き込み、家財を巻き込み、そして美子を巻き込んだ。落下していく体が渦に巻き込まれて、上空に浮き上がる。それはまるで、飛んでいるかのような光景であった。
そして次第に渦はゆるやかになり、美子の体はぽちゃんと音を立ててアーロンパークのプールに落下した。
ナミの隣にいたヨサクとジョニーはその光景に腰を抜かして、地面に座り込み、美子が落下したプールを呆気にとられながら見つめている。プールに投げ出された美子の体はサンジが救出にあたっていた。
「神風だ……」
呟いたのはどちらだったか。
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アーロンはルフィの手によって討たれココヤシ村には平和が訪れた。島をあげた盛大な宴が次の日も、その次の日も行われるなか、美子だけがたった一人目を覚まさず、すうすうと穏やかな寝息を立てている。
美子が眠るベッドのはしっこに腰をかけて、美子の髪の毛をさらさらと漉くように撫でるナミの左手にはアーロンを模した入れ墨ではなく、風車とみかんが描かれたタトゥーが彫ってある。
「似合うじゃん、それ」
「…ノジコ、」
ナミの隣にノジコも座り、美子の姿を見つめた。外傷は奇跡的に全く見られない。けれど、アーロンが討たれたあの日から美子は深く眠りに落ちている。医者がいうには本当に「ただ眠っている」というのだから対処の仕様もない。