18


 高校生の美子には、したいことも、欲しいものも、なりたいものもたくさんあって。流れ星が流れる夜になれば、手をあわせてお願いをした。
ーー神様、どうか、願いを叶えてください。
可愛くなりたい。美味しいものを食べたい。あれが欲しい、これが欲しい。いつか、王子様がわたしを迎えに来てくれたら。夢見がちで、甘ったるくて、なんとも乙女チックな幼い願い事。一般家庭に生まれて、都心部からはほど遠い田舎で育った美子は、願うことはあっても、願われることなんてない。せいぜい掃除当番変わって、帰りに牛乳買ってきて、くらいのささやかな願いだ。
けれど、美子の夢の中の世界。鮫の男が美子を見て、美子が流れ星に願うよりもずうっと切実に口にした。ーーおれの願いを叶えてくれ、と。
美子は神様ではない。杖を振って、呪文を唱えて、ガラスの靴を与えてあげられるような魔法使いでもないのだ。

「どうして、」

どうして、わたしだったの?

疑問はそこだ。どうして自分だったのか。アーロンに出会ったこともなければ、そもそもが夢の中の世界である。知り合いもいない。
アーロンは、美子にまるで感心がなかったように見えたのに、美子の言葉に様子をかえた。ナミの家のみかん畑で口にした、真珠みたいな葡萄。ひどくまずくて、渋いような苦いような酸っぱいような。味覚のすべてを刺激する、見た目とは裏腹な葡萄を思い出して、美子は顔をしかめた。

価値のあるものだった?
真珠みたいな葡萄なんて珍しい。高い値がつくに違いない。
でも、食べたことを咎められたわけではないし、あの瞬間、必要とされたのは間違いなく自分自身だった。
葡萄を口にした美子が、アーロンにとって願いを叶えられる存在になったのだ。

美子は、自分の唇を人差し指の背でなぜる。

「(そういえば、わたし、口にしたこと、本当になってる?)」
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