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 自分を拘束していた男の手から逃れた美子が畑まで飛び出ると、空気を引き裂くような乾いた破裂音があたりに響いた。身体がびくりとはねあがる。普段から聞き覚えのある音ではないけれど、秋になると運動会シーズンに入るのであちこちでこの音が聞こえてくる。先生たちがリレーの合図にと鳴らすスターターピストル。弾も煙も出ないただ音だけのものだったけれど、昔からこの音には慣れない。日常に合わない、異質な音だと思う。
どきどきと、驚きで早くなる心臓をゆるく押さえながらあたりを見回した。美子がみかんをもいで美味しくいただいていたときとは、がらりと様変わりをしている。なぎ倒されたみかんの木、掘り返された土。たわわに実っていたみかんは足元にころりと転がっていた。

落ちて、踏み潰されたみかんを手に取ると、なんともいえない気持ちが胸にじんわりと染みていく。ひとつひとつ泥を払いながら手に取っていると、目の前でぶわりと砂煙が舞って、美子の真横を風がなびいていった。顔面にかかった砂を払いながら振りかえる。

「ナミちゃん…?」

よどみなく、真っ直ぐに。駆けていく後ろ姿でナミだとわかった。あのオレンジ色は間違えようがない
声をかけたが、ナミはもう遥かとおくを走っている。ただならぬ様子に、畑から聞こえてきた音も気になったがナミの背を追いかけた。
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