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 お金、は日常から切って離せないものである。人間らしい、人並みの生活を送ろうとすれば大なり小なりお金はいる。大人はもちろん、子供だって、親からおこづかいを渡されて自分で使い方を覚えていくのだ。
それを、ナミとそれほど年も変わらないであろう少女がわからないという。紙幣を指でつまんで、心底不思議そうに「これなあに?」と口にした。これにはナミもノジコも開いた口がふさがらなかった。

「わ、わからないの?」

ノジコの問いかけに、美子は口のなかでもにょもにょと何か言いたそうにして、うつむいた。

「ここがイーストブルーだっていうのは?」

ナミの問いかけにも「い、いーすと、ぶるぅ」と覚えたての言葉みたいに口にする。

「どこから きたの?」

美子は少し悩んで、わかんない、とだけ口にした。
美子は日本在住のド田舎に住むどこにでもいる女子高生だけれど、夢の世界ではどう口にしていいか分からず、曖昧にわからないとだけ答えた。
しかし、世界常識である、イーストブルー、サウスブルー、ウェストブルー、ノースブルーの概念がない。お金を見ても″お金″であることを認識出来ない。自分がどこからきたのかも、わからない。
ナミは、どこだかの奴隷かとも思った。この世界には奴隷という胸くそ悪い習慣が根だえずある。生まれながらの奴隷とすれば一般的な教養がないのも頷ける。けれど、奴隷というには美子は小綺麗だった。ひとつひとつの動作にも、教えた人間がいることがわかるくらいにはきちんとしている。
そうじゃないならば、記憶障害か。はたまた、育ちが良すぎるから、という可能性もないわけではない。

ナミは、目の前の少女をみすえた。
あどけない顔立ち。苦労のしらない、白いなめらかな手。

嘘をついているわけでは、なさそうだった。
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