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 夜中に暴走族がエンジンをふかして走ったり、民家に空き巣が入ったり、深夜の校舎のガラスを割ったり、頭が愉快なパーティーピーポーがプールに入って遊んだり。そういったことがあると、周りの大人たちは「治安悪いわね」とぶつくさ文句をたれて、井戸端会議がいつもより長くなる。
ーーきっと、こういうのでは、ないんだろうなあ。

美子を助けてくれたひとのお姉さん、ノジコという人物が口にする"治安の悪さ"を美子基準で考えてみたが、このレベルで離れたほうがいいよと促されるようなことにはならない気がした。美子が思うより、夢の世界はずっと深刻にできている。とりあえず体の調子が落ち着くまでは家にいていいとの許可を得たので、うろうろと部屋を歩き回りながら窓の外の様子をうかがった。人の歩いていない道に、なぎ倒されたように倒壊した家屋。
治安が悪いわよ、の本当の意味を、平和な世界にいた美子には想像もつかない。





 しばらく家のなかを探索させてもらって、ノジコが木で編んだ籠を持っていたので声をかけた。先ほど見えた、等間隔に並んだ木々に茂るたわわな果実を収穫しにいくらしい。ノジコの後ろをついていけば、青々とした木々にはみかんがなっている。
美子は田舎に住んでいたけれど、馴染み深い果物のなる木は柿の木だった。美子よりずっと高い木に固くて、しぶい柿の実がなっていた。あれはそのまま食べるものではなくて、しぶ抜きをして食べたり、干し柿にして食べたら美味しい。
食べることを考えていると、お腹が切なく くう と小さな音を立てた。ノジコはその音にからから笑って、「好きなのもいで食べな」と言ってくれる。
みかんは、美子の好物だ。果物はなんでも好きだが柿にいちご、なによりこたつで食べるみかんは最高だ。うれしい!と口にして満面の笑みを浮かべながら、みかんを吟味する。小さくて、下向きに垂れているものが甘くて美味しいのだと、おばあちゃんが言っていた。

「ちっちゃくて、したむき…ちっちゃくて、したむき…」

難しい顔をしながら、移動してみかんの木を眺める。どれもがたっぷりの愛情を受けて育っており、どれを見ても美味しそうだった。
そのとき、ふと、みかんの木とみかんの木の間から白いものが見えた気がして。立ち止まって、みかんの木の葉を手で軽く掻き分ける。みかんの木ばかりが生えている空間になぜだか、そこには葡萄がひとふさ実っていた。
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