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 木造の家。大きな窓からは同じ種類の木が並んでいて、そこにこぶしくらいの果実がたわわに実っているのが見えた。
美子の記憶のかぎりでは、確かおばあちゃんの部屋にいたはずなのに、いま自分のいる状況はおばあちゃんの家の様子とはまるで違ってみえる。自分のおかれた状況がまるで納得はできないが、ひとつ納得できるとすれば″夢″であるとしか言いようがなかった。見覚えがない場所、見慣れない風景、……夢だとすればしっくりいくのに。
ベッドのなかから起き上がって自分の身体に触れてみる。なんだか身体はべとべとしているし、髪の毛の具合は最悪だ。夢にしては感触がやけにリアルだなあと思った。

「あ、目ぇさめた?」

自分の身体にぺとぺとと触れていると、声がかけられた。視線を声のした方向にむける。
水色の髪の毛。華奢にみえて、豊満な身体。鎖骨から腕にかけてのタトゥー。
自分の住んでいた田舎にこうも垢抜けている人間はお目にかかったことがない。自分もこうなりたいのだろうか。夢というのは願望の表れでもあるとテレビや本で目にしたことがある。
目の前の女性をぼんやり見つめていると、声をかけたのにも反応をしない美子の様子に、目の前でひょいひょいと手を振ってみせた。はっと我にかえって、すみません、と言葉を口のなかでゴニョゴニョ濁しながら呟いた。

「本調子にならないのかもね。あんた、海に浮かんでたらしいし」
「………う、海??」
「そーお、海。あんたよく生きてたわね」

ーー運がよかったのね。ぱくん、って食べられてたらおしまいよ。
右手を開いて、ぎゅっとにぎる。おそらく″たべる″動作をされているのだと理解して、ぞっとした。夢の中の自分は海に浮かんでおり、命の危険性まで伴っていたのだ。なんと恐ろしいこと。髪の毛の具合がなんだかゴワゴワとしているのも、身体がやけにべとべとしているのも、なるほど海が原因らしい。そういえば、ラムネの夢を見たことを思い出した。夢の中で夢を見るとは不可思議な現象だ。

「まあ、なんていうか、運がいいのか悪いのかって感じだけどね」

苦笑いぎみにポツリと呟いた言葉の意味はわからなかったけれど、運はよかったのだと思う。いくら夢とはいえ、海の生物、おそらく鮫あたりだろうか。そんなのに食べられる夢見は悪いに違いない。助けてもらってありがとうございます、と頭をさげれば、女性はいやいやと手を左右に振った。

「助けたのあたしじゃないの。あたしの妹でさ、」
「妹…、さん。あの、いまどこにいますか?…お礼、」
「あー、いいよ。いいよ。」
「でも、」
「お礼はいいからさ。あんたが本調子になったら、ここからなるべくはやく離れな。…治安、よくないんだわ、ここ」
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