そばにいてくれるだけで良いから


行かないで





Episode 2


佑麻が故郷を離れると言ったときに、彼女を引き止めようと一番必死だったのは、誠だった


「佑麻、考えなおせよ!!都会に行ったって、辛くなってこっちに帰ってくるのがオチだぞ?!」


「それでも、試してみなきゃ、わからないよ」


「だからって、向こうにわざわざ行く必要がどこにあるんだ?!」


「……ずっと憧れてたから、」


「憧れだけで通用する場所じゃない」


いつになく真剣で、しかし焦燥の混じる誠の瞳に佑麻はついに返す言葉を失った


返答に困りはてた佑麻

そんな佑麻に急にかかった圧力

不意に鼻をかすめたシャンプーの香りは、佑麻がよく知るものだった


「ま、誠、」


「佑麻、行くな」


佑麻を抱きしめる誠の力は、弱々しい言葉と比例して次第に強くなる


「  」


「ん?ごめん、なんて言ったか聞こえなかった、」


「………なんでもない。とにかく、行くな、ここにいろ」


今にも泣きそうな誠の顔に、佑麻の意思が一瞬揺らぐ

だがしかし、引き下がるわけにはいかない



「……ごめん、やっぱり私行くよ。やりたい事とか、今はないけど、でも、目の前にあるものだけを手にとっていたら、何も掴めないからさ、」


「………そうか…。仕方ない…、そこまで言うなら、行ってこい!」

「!!う、うん!ありがとう!!」


佑麻の強い意思を感じた誠は、ついに佑麻を送りだすと決めた


佑麻が喜んで走り去っていく姿を笑顔で見送る誠


しかし佑麻の姿が見えなくなってから、その笑顔はいとも簡単に崩れた


「佑麻、お前は俺との約束、覚えてくれているのか…?」



"佑麻ちゃん!大きくなったらさ、俺と結婚してくれ!!"

"え?……えぇええ?!急にどうしたの?"

"……嫌か?"

"…え?"

"佑麻ちゃんは、俺と結婚するの、嫌?"

"そんな!嫌なんかじゃないよ、嬉しいよ!!誠くんと、結婚できるなんて、嬉しい!"

"そうか、じゃあ「こんやく」だな!"

"こんにゃく…?"

"…、まぁそれでいいや!とりあえず約束だぞ?"

"うん!約束!"



お互いが小さく短い指を精一杯絡めて交わした約束

幼いながらも、永久の約束を契ろうとした

それをお前は覚えているか…?





「お前が好きだ」


佑麻の耳元で静かに囁いた言葉はあまりにも小さすぎて、届かなかった











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