「若芽」
「逢引をするなら新月の夜が良いわね。だって、暗闇が私たちを隠してくれるでしょうから」
そう言って彼女は、それはそれは可愛らしく笑った。私はその笑顔の裏に憂いがある事を知らん振りしていたし、これからもそうするのだと思う。(卑怯だとよく分かっている)
「でも、そんなに暗くちゃ貴女の顔が見れないかしらね。私、逢引したら貴女に接吻をしたいのに…」
「それくらい、暗くたってできるわよ」
「ううん、本当は接吻以外もしたいの。もっと、もっと触れたいのよ」
八の字になった眉が彼女の顔を儚くさせる。私の心臓はどくりと鳴った。
「誰もいなくて、私達だけの世界があればいいのに。そしたらなにも気にせずずっとひっついていられる」
「幻想的な事を言うのねぇ」
「だって、そうじゃないと、私達ずっと一緒にいられないわ」
俯いてしまった彼女に私はどうもできなかった。彼女にも私にも、自身がこの先世間の流れに合わせてお互いとは違う人と一緒になるのだと分かっていた。
(私が、私じゃなければなぁ)
「私が私じゃなかったらよかったのに」
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