「やあやあ矢三郎くんや、しばらくぶりだねぇ」
「これはこれは先生の部屋のお隣のお姉さん。今日はお早いお帰りで、だいたい一月くらいでしょうか。今回はどちらまで?」
「ん?温泉に入りたいと思ってね、此度は北欧まで」
「ほお、北欧ですか。そりゃあまた随分遠くに」
「なあに、行きたいと思えばいつでも行けるこのご時世。行かないほうが酷ってものよ。ほら、君にお土産。こっちのは兄弟で仲良くお食べな。これはお母様に、これは総一郎さんにね」
「こんなにたくさん頂いてもいいので?」
「いいのいいの。貰えるものはありがたく受け取っておきなさいな」
「はあ、」
「ああそうだ、弁天さまに会う予定はあるかい?弁天さまにもお土産を買ったんだけど、彼女に捕まると色々面倒だから矢三郎くんに渡すのを頼みたいのだけれど」
「面倒…って、そんなこと言わずに会いに行ったらどうです。最近会えなくて寂しいと呟いておりましたよ」
「ええー、冗談はおよしよ。お土産を買ったものの、こっちはぎりぎりまで会いたくないわ」
「別に弁天様に嫌われているわけでもないのに、どうしてそこまで避けるのですか」
「……あの人、一度私の頬を掴んだら離してくれないんだ。指先でふにふにびよびよと弄ばれて、たまったもんじゃないよ」
「これまた困ったお人だ」
「だからこのお土産は矢三郎くんに預けたよ。いつになっても良いから渡す事だけは忘れないでおくれな」
「はいはい。しぶしぶですがこの任務、この下鴨家が三男、下鴨矢三郎がお引き受けします」
「うんありがとう。さて、久しぶりに会ったのだからもう少し私の部屋におあがりよ」




「ああそうだ。矢三郎くん、手をこちらに」
「手を?…………飴、ですか」
「うん。飴です」
「………」
「………ん?」
「……なんか、怪しい雰囲気がありゃしませんかね?」
「私からのご好意の飴から?心配御無用、ちゃんと食べ物だから。さあさ一粒」
「はあ………では、一粒」




「……〜っ!!!」
「おお、流石の矢三郎くんも北欧自慢の飴には敵わないか。久しぶりにもふもふしても良いかなもふもふ」
「ぐ、もしかしてこの毛玉を堪能したいがためにこの飴を寄越したので?」
「あわよくばってやつよ。矢三郎くんはふらりふらりと躱してしまうから。ふふっ、やっぱり君が一番抱き心地が良い」
「もう少し優しく抱き締めてくださいませんか?腹のあたりがきゅっと絞まります」
「ああすまない、この一月程毛玉シックのようなものだったからついつい力が籠ってしまう。私が良いと言うまでこのままでいてくれると嬉しいのだけど」
「…あなたに捕まった時点で逃げることは諦めております」
「従順でよろしい。それでは私は君を抱いたまま一眠りするかなおやすみなさい」
「え、ちょ、このまま!?」




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有頂天家族が面白かったのでなんとなく…
赤玉先生はアパートに住んでるらしいのでそのご近所さんなお姉さん。
狸とか天狗とか知ってるけど普通の人間(のはず)
気が付けばふらふらと海外に旅行に行ってる。神出鬼没。