甘いものが嫌いだ。
昔からこれだけは譲れない。
へにゃりふにゃりと笑うのが嫌いだ。
甘い匂いを漂わせて笑う姿が彼の笑い方に似てるから、いらいらする。
世の中の甘くどろどろしたものが嫌いだ。
そのどろどろで溺れた先には何があるんだろうと、無意味に考える。
甘くて何が楽しいんだ。
甘くて何が嬉しいんだ。
ああ、そんな甘い匂いを漂わせて私に話しかけてこないで。鬱陶しい。

でも、ナッティは好き。
私をそのどろどろで甘やかしてくれるのが好き。
甘いものを幸せそうにして食べる姿が好き。
ふわりと香るあの甘くて吐き気のする匂いは、彼だけは特別。私の中の甘いモノは彼だけ。彼だけが甘いモノ。だから、だからだから、だからあなた達みたいなのがその甘い匂いを纏わせるのはいけない。


「…いけないんだよ」


今の私の目はきっと冷めきってる。甘さなんて到底ない。ばきりと奥歯でスナックを噛み砕いた。
先程まで鬱陶しいほどの匂いは鉄の臭いに混ざって、甘い匂いなんて到底感じない。そう、これでいい。これでいいのと歪に笑ってみせた。



「名前ー、お菓子食べに行こー」


陽気な声と共に、鼻孔を通った脳を溶かすような甘い匂い。
ふつふつと沸き立っていた思いがそのどろどろに溶け出すように消える。この声は、この匂いは、知っている。


「だから、甘いのは嫌だって言ってるんだけど」


振り返れば、愛しい人。
私を甘やかしてくれて、私を幸せな気分にしてくれる人。


「えー、でも名前そんなこと言っても結局お菓子食べるの付き合ってくれるじゃん」


両手いっぱいに抱えられた甘味。
ああ、またそんなに食べて。甘党だなんて言葉じゃ収まりきらないくらい貴方は甘いモノが好きだね。


「名前のために辛いやつも買ったし!」
「あー、はいはいありがとうね」
「お礼のキスちょーだい」
「その前にスナック」


手を差し出す私の足下を見ても顔を歪めることをしない。「また明日」と口パクでそれらを見下して、ナッティは私の腕に自身の腕を絡めた。




―I dislike a sweet thing.―
(私は甘い物が嫌いです。)
でも甘い甘い彼は好きです。

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解説補足
辛党主人公の心境事情。
甘い物は吐き気がするくらい嫌い。けどそんな甘い物が好きなナッティは好き。
ナッティ以外のやつらが甘くてふわふわしてるなんて気持ち悪い。私のナッティのようになろうとしないで。ナッティ以外が甘くてふわふわなんてありえない。

そんな辛党主人公さんの矛盾。だからナッティ以外の甘くてふわふわは消えるべき。というか私が消さないと。
甘くてふわふわでメンヘラ代表ギグルスの殺人記録@

…みたいな