私は彼が嫌いだ。
それはもう前世の頃から嫌っていたんじゃないか、それとも元から私は彼を嫌いになる運命だったのかと思うほどに。身体の全ての細胞からの拒絶、脳から伝えられる嫌悪、妬み、その他以下略。
色んな感情が頭の中をこれでもかと掻き乱して、出てきた答えは彼を嫌うことなのだ。


「私はこんなに愛しているのに。どうしてでしょうね、名前」


そんなの逆にこっちが聞きたいくらいだ。現に今こうして彼と出掛けて、彼の隣に座って、手だって繋いでいて(しかも恋人繋ぎ)、たくさん愛し合っているはずなのに、私は彼が嫌いだという事実は変わっていない。口から出る言葉はすべて拒絶の意。
それなのに彼は自分を嫌う私を愛し、私はその愛に拒絶で応えるのだ。


「私はあんたが嫌い」
「ええ、知っています」
「何も見えてないくせによく言うね。私が今どんな顔をしてあなたに話し掛けているか、わかる?」
「何も見えないからこそわかることがあるんですよ。あなたが思っているより、随分と優しい目で私を見ているのがその証拠です」


つつ、と私の冷えた頬に手を滑らせて、かち合ったと思われるサングラス越しの目を細める。そのまま頬に優しく口付けを落としてくれる。それさえも愛しいはずなのに、なんでも見透かされてしまっているようだなんて腑に落ちないしなにより、ああ、憎いなあなんて。
その暗闇の中で一体何を見ているのかわからない。私を本当に見ているのかわからない。
私は彼が嫌いで、彼は私が好きで。
その理由は?いつから?私が嫌いになったのはいつ?
わからない。


「…わからないよ」
「今はわからなくて良いんです」
「…嫌い」
「はい」


ごめんなさい嫌いなの。貴方がどうしても。
こんなにも私を甘やかしてくれる人なんて早々いないのに。
それでも私はこの感情がわからないから見つかるまで拒絶を繰り返す。
ぐるぐると頭のなかに居座る拒絶の念が嫌い。
こんなことしか言えない私が嫌い。
そんな私を叱りもせずに優しく抱き締めてくれるあなたが嫌い。


「でもね、名前。あなたが拒絶を繰り返しているのも私は悪くはないと思っていますよ」
「なんで?」
「さぁ?」


なんとなく、でしょうか。ほら、名前だってなんとなく私を嫌うんでしょう。それと同じです。

嫌よ嫌よも好きのうちって言うでしょう?


そう言って、彼は私をまた甘やかす。




―甘やかされる私―