この街は、被害者と加害者がはっきり別れていると私は思う。盲目の人だったり、青いヒーローだったり青い鈍感男だったり緑の軍人は明らかに加害者で、他は多分哀れな被害者達。
私は被害者でもなく加害者でもなく、傍観、いや、目撃者だと思う。というかそうだとしか言いようがない気がする。
今も散歩していれば、ランピーが運転する車が自分とすれ違うのを確認した途端、突如彼の車がスリップ並のドリフトを開始してカドルス達に勢い良く突っ込むという事態。ああ最悪だ。今日も見上げた空は嫌に眩しくて、思わず眉間に皺が寄る。

足元に広がるぐしゃぐしゃになった赤い臓器や肉片だとか、粉々になった白い骨だとか、潰れずに飛び出た丸い目玉だとか、毎日に近いほど見ていればもう見慣れたし見飽きた。
そんな災害に巻き込まれずにただただ見ていることをしている私にも、慣れた。
少し前までの私は、わんわん泣き出して友人の死を嘆いてたけど、流石に次の日には生き返っている友人を見たら正直もうどうでもよくなってきた。この街の異常に、不思議な慣れを感じる。
あれ、死ぬってなんだっけ。まぁ私達には関係ないか。


「名前、カドルス見てない?」
「ああ、彼らの今日はもう終わったよ。残念、また明日だね」
「…そう」


そのまま突っ立っていたらギグルスがカドルスを探していて、小走りでこちらに来た。私と私の足元に広がる赤い物達を見て若干彼女の顔が引きつる。そのまま彼の死を告げればギグルスのひきつった表情がさらに悲しく歪んでいくのを見た。
どうしてそんな顔をするの?明日にはまた会えるじゃないか。
ギグルスは服の胸元をにきゅっと握って、震えた声で私に言う。


「名前、最近笑わなくなったね」
「そうかな」
「怒らなくなったし、それになにより」


泣かなくなったね。


確かにそうかもしれない。こんなことを考えるようになってからこの街が怖くなって逃げ出したかった時もあったし、何もできない自分が情けなくて憎らしかった時もあった。
でも、いくら泣いたって明日には会えるし。心配しているこちらの身の事なんて知らないふり。
ならいっそ、何も考えずにただ自分が生きる事だけをすれば良いかな、なんて。
というか、そうさせているのはどこのどいつらだろうね。先ほどより眩しく感じる日の光に顔を歪めながら、ぐしゃりと誰かだったものを踏み潰した。




―そして私は今日も生きる―


この踏み潰した感覚を、私は覚えているのに踏み潰された彼らは覚えてないんだってさ。
都合が良すぎるよね。
ああ、そういえばギグルスは被害者側のほうが多いのかな?ねぇ、いっそのこと私、加害者になってみようかな。そうしたほうが楽かもしれない。貴女で試させてよ。
そういいながらギグルスの首に手をかける。
突然の事で驚愕に目を見開いた彼女のその表情がなぜか見ていて気分が良かった。
私は今日から加害者に転じるのだ。