「名前と僕は、"友達"?」
「…え、あ……うん」
「そう…良かった」


ぎゅっと抱き着いて首筋に顔を埋めると、名前は顔をしかめた。
こちらから見えてないと思ってしかめてるようだけど残念。僕は知ってるから。名前はこうされたりするの吐き気がするくらい嫌なんだよね?


「…カドルス」
「何?」
「…やっぱり、なんでも、ない」
「…ふふっ」


名前は昔から他人と自分とにわける癖があった。どれ程の関わりやいくつもの接点があっても"他人"と自分をきっちりとわける。
もちろん僕も名前に特別視されてるわけじゃないから、毎日名前に会って話をしてる僕でさえ"他人"とカテゴライズされてる。さっきの質問だってほんとうは僕とは"他人"だっていいたかったんでしょ。
きゅっと唇を結んで僕とのハグに耐えている名前。感情表現は乏しくないから、名前のコロコロ変わる表情を見るのは楽しい。
だけど、そうやって"他人"と"自分"にわけて名前にどんな得があるのか知らないけれど、僕ら…僕にとってその癖は邪魔で邪魔で仕方ないんだよね。

「…名前、僕は名前がだあいすきだよ」
「うん、ありがとう」
「名前は僕のこと、好き?」
「…うん」
「……それは、"他人"として?」


名前が息を飲む音。
そっと両手で頬を包んで僕の顔と向き合わせる。
けどね、ほら、そうやって目を見ているようで実はあわせていない。それが名前が自分で決めている"他人"と"自分"との隔たり。最後の防衛線。


「名前、僕の目を見てよ」
「…っ……」
「ねぇ、見れないの?"他人"とは目も合わせたくないのかなぁ」
「……離して」
「いやだ」


眉間に皺を寄せて睨み付けてくる名前の顔をぐっと自分の顔に寄せる。
鼻がくっつきそうなくらい近くに。名前の吐息がかかるのが心地よくて、思わずうっとりと目を細める。
僕の手を振りほどこうとする名前の両手を逆に捕まえて無理矢理名前の唇に自分のそれを押し付けた。
驚きに見開かれた目にやっと僕が映れた気がして、満足感と言い様のない支配感が込み上げる。


「最、低」
「うん、最低だね。僕。でも、」


名前のほうがもっと酷いことしてるよね?僕たちに。
耳元でそう言って、名前のその白くて綺麗な首にゆっくりと両手をかけた。


「…っぁ、カドル、ス、やめっ…」
「ねぇ、名前と僕はいつまでも他人なの?友達でもなく、親友でもなく、家族でもない"他人"?それは酷くない?ああ、名前は無自覚だから僕の言ってることわからないか。じゃあ、それならさ、名前がもう僕のことを他人だと思わなくなるくらい最低な事をすれば、名前はもう僕を他人とは思わなくなるのかな?…ねぇ。答えろよ」


ぐぐっと親指に力を込めればひゅっと鳴る名前の喉。次第に呼吸もできない程に力を入れて、口からだらしなく唾液をたらす名前にもう一度だけ口付けしてから一言


「次会った時は、僕は名前にとってどんな存在になるんだろうね」




―もう他人じゃないでしょう?―

――――――――――
カドルスは病ませるためにあるはず。