「名前、辛い」


いきなり何を言い出すかと思えばもう何度も言われた言葉が呟かれた。


「…ナッティは甘い」


私も何度目かの言葉をナッティへ向ける。

毎日甘いものを食べ続ける"甘党"なナッティと、毎日辛いものを食べ続ける"辛党"な私。
目が合えばいつもナッティからキスを求めて、勝手に唇を合わせて必ずこの台詞をお互いに吐きあう。


「辛いって、んなこと言われてもいきなりしてきたナッティが悪いって言ってるじゃん」


新作の激辛スナックの袋を開けて、口へ3つほど放り込みながら辛い辛いと言って口いっぱいに飴をつめ始めたナッティの頬をつつく。
バリバリと飴を噛んではつめこみ、それを4回ほど繰り返して落ち着いたあと、ナッティは私の持っていた激辛スナックの袋を取り上げた。


「名前、これから辛いもの禁止ー。キスしたとき辛すぎて俺吐きそう」
「…じゃあナッティも甘いもの禁止。キスするときも甘すぎて私吐きそうー」
「…え、ヤダ!甘いものないと俺死んじゃう」
「私だって辛いもの摂取しなかったら死んじゃう」


こっちもナッティの口に入っているキャンディーの棒をぐいっ、と引っ張ってナッティから飴を取り上げる。


「あっ!名前!返して!」
「じゃあそっちも返してよ」
「ヤダ!」
「じゃあ私もヤダ」


お互いのものをお互いに取り上げてお互いに背中にそれを隠す。
背中から甘い匂いがして少し顔をしかめた。
ナッティの匂いと混ざった甘い匂いなら平気なのに甘いもの単体の匂いは吐き気がするほど嫌い。


「っていうかナッティが私にキスしなけりゃ何の問題もないでしょ」
「え、それもヤダ!名前にキスしないと俺死ぬっ!死んじゃう!」
「私は死なないから別に良いし」


それじゃあ、この話はおしまいね。
背を向けて棚にストックしてあった激辛スナックを取りに向かえば、ナッティが何か言いたげに声を漏らす。
それを無視してどかりとソファに座り、スナックを口に入れた。


しばらくしてパタパタとこちらに向かう足音。


「名前、名前」
「…なに?」


振り向かずに不機嫌そうに答えると袋を漁る音と口にスナック菓子を入れたような音。
腕を掴まれてもう一度唇を合わせられた。


「…ナッティ」
「…………名前」


向き合って見ればナッティは私の激辛スナックを口に放り込んで笑っていた。




―君のためなら!―

(名前のためなら辛いのだっておろろろろ…)
(あ、ちょ、もう…バカ!もどすなもどすな!)