「…あ」

やってしまった。
つい昨日にも似たようなことをした気がする今日。目の前には血塗れた黄色いフードを被った彼。
先程まで一緒に遊んでいた彼は私の手によって肉片と化し、今日を終えたのだ。


「あー…なんでこうなるかなぁ」


がしがしと乱暴に髪をかき上げ、悪態をつく。
違和感に気付いたのはつい最近。異様に気だるくなるたび気がつけば周りは血の海になっていて、私の手には決まって凶器となるものが握られているのだ。もちろん血濡れというオプション付きで。
今回の凶器はダーツの矢。随分な量の矢がカドルスの至る部分に突き刺さっていてる。さぞ行為中の私は楽しそうな顔で事をやり遂げていたのだろう。

とりあえずこんな場所に彼を放置できない。幸い、やられた本人達はなぜか私がやったのを覚えていないらしい。つまりは他人に見られなければこの体質は永遠にバレないということだ。
しゃがみこんで彼に刺さっている矢を抜き取る。粘着質な音をたてて抜ける矢は見ていて気分が良くない。噴き出す血なんて見たら食が進むなんて事は絶対にない。


「……よっ、と」


一通り矢を抜き終えてカドルスを背負う。男性を背負うなんてめったに経験できない。ましてやもう彼は死んでいるのだ。力の抜けた身体は普段の体重より重くなると聞いたことがあるけれどそれは本当で、ずしりとした重みに思わず足がふらつく。
体勢を崩さぬように足元を見ながら歩いていると視線の先にカツン、と音を立てて赤色の杖先が見えた。


「名前さん?」
「…モール、さん」


ぶわっと嫌な汗が全身から吹き出た。見られてしまった。何を?この状況を。どうする?どうしてしまおう。いっそのことモールさんもここで終わらせてしまおうか?


「お散歩ですか?」
「…はい、モールさんも?」
「ええ、少し陽に当たりに」


モールさんは目が見えないことはわかっている。
でも、何かを言われる前にこの場から去ろう。「それでは私はこのあたりで…」と言い残してモールさんの進行方向とは逆に足を進めれば


「……あの、」
「はい?」
「この手は一体…?」


ぐっ、とモールさんに腕を掴まれた。
実は、モールさんは目が見えているんじゃないかと錯覚してしまうほどタイミング良く。
「モールさ」
「名前さん」


離してもらおうとするとモールさんは私の首もとに顔を埋めて鼻をすん、と動かした。首筋にあたるさらさらとした彼の髪がくすぐったくて身を後ろに退こうとしても片手を腰に添えられてしまい退けなくなった。


「あ、あの、モールさん」
「名前さん」


顔をぐっと近付けられて頬に手を添えられる。そのサングラス越しの瞳に見つめられている気がして目線を反らせば、頬に添えた手の親指が頬の何かを拭った。


「……?」
「…散歩なんて、嘘でしょう?」


モールさんは口角を開けて親指を見せる。
そこには赤くなったモールさんの親指が見えた。


「……あ」
「証拠は残さないほうが良いですよ」


拭われたんだ、頬についた血を。
そのままモールさんは親指をべろりと舐めて微笑んだ。




―あ、バレてる。―

(あの、このことは誰にも…)
(言いませんよ。名前さんと私の秘密です)