まるでバケツをひっくり返したような、とまでは言わないけれど、授業中に降り始めたどしゃぶりの雨。 窓の外を眺めながらしまった、なんて思った時にはもう遅くて、上の空で聞いていた長ったらしいだけのつまらない授業が終わり、放課後になった今でも雨は降り続いている。 私の鞄の中には傘が入っていない。傘代わりになるものも見当たらず、職員室にある貸し出し用の傘をと職員室に向かえば、つい先程私とすれ違った人が持って行った傘で最後だと言われてあえなく撃沈。 どうせ午後には晴れるだろうと思っていたやつ誰だ。私だ。こんなことなら売店で傘を買っておけば良かった。備えあればなんたらとか言うし。丁度の目の前で閉まった売店のドアを寂しく見つめて方向転換。 仕方なく下駄箱へと向かう足取りは非常に重い。学校と私の家は結構離れているし、バスの乗り継ぎにしても停留所が離れているため雨に濡れる。
すぅ、雨独特の匂いを肺に浸透させて大きく吐き出す。 もう少し待ってみて、それでも駄目だったらもう帰ろう。 ポケットから携帯を出す。サイレントマナーモードにしていたため、メールを知らせるランプが点滅していたのを見て慌てて開いた。
「……おー…」
見れば、名前に一方通行という4文字。 件名はなし。 内容はどうやら傘を持たなかった哀れな私を迎えにきてくれるということ。 お礼と現在地を手早く打ち込んで、返信。 数秒して、彼から返信。 どうやら彼はもうすぐそこにいるらしい。 もう一度来たメールを見て、下駄箱から飛び出した。
「っ、一方通行!」
鞄を頭に被せてバシャバシャと水を跳ねらせながら彼との距離をつめる。振り向いたと同時に、彼は私に向かって傘を投げつけた。
「うわっ、と」 「さっさと帰ンぞ」 「うん、傘ありがとー」
人通りが少なくなった歩道を並んで歩く。 傘やアスファルトに打ち付ける雨の音と時折水を跳ねながら歩く私と彼の足音。 傘でお互いの顔が見えなくて、言葉を発しても雨の音でかき消されてしまって、しょうがないから足元に視線を向けて歩く。 すぐ隣にいるのに、傘という壁と雨という雑音で彼が見えなくなった気がして思わず足を止める。
「……名前?」
気付いた彼が隣に立った。けど、顔が見えない。毎日毎日突き合わせているのに…いや、突き合わせているからこそ隣にいるのに見えないってこんなにいらつくんだ。 ああ、雨の日って、
「雨の日ってさ、お互いに傘さすから相手と一定の距離空いちゃうからなんか嫌だな。ねぇ、そう思わない?」 「………」 「…一方通行?」 「じゃァ、こォしますかァ…」 「え、ちょ、なにして…」
ばきり、自分の傘を壊して彼はにやりと笑う。え、なにこの人とうとうおかしくなっちゃった? 傘としての役割を果たさなくなったそれを放り投げて、ごく自然な動作で彼は私の指す傘に入った。
肩を引き寄せられて、一方通行と密着。
「あの、」 「いいから黙って入らせろ」 「…はい」
一人が入るには少し大きめの傘も二人入ってしまえばそれなりにお互いが身を寄せあわなければ肩が濡れるのはわかる。 でも、彼はさっきまで自分の傘を持ってたはず。いきなり壊して、我が物顔で入ってきて一体なんなんだ。
「あァ?てめェが俺の顔見れなくて寂しいって喚くからわざわざ入ってやったンだろォが」 「…あんた、さらりと恥ずかしいこと言えるようになったんだね」 「……うるせェ…」
さっきよりも強めに引き寄せられて、熱をもった頬が彼に見えていないか心配になった。
雨降りと放課後
―――――――― かよこ様 企画参加ありがとうございます^^ 実は一方通行の口調が迷子なまま書い…ごほんごほん。 久しぶりに甘めのような一方通行を書けて私は満足なのです。 なにかありましたらお気軽にご連絡ください。
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