虹を見たら走れ
「おいクソ名前、数学の教科書寄越せ」
比較的静かな私のクラスに、
「絶対に嫌。ってかシフティの借りれば良いじゃん。珍しく選択クラス違うんだから」 「あいつ今日いねぇんだよ」 「ああ…謹慎?」 「まぁそんなもん」 「ざまぁみろ」 「シフに言ってやろ。ぜってー仕返しされるぜ」 「そんなこと言っていいの?どうせ今回の謹慎、あんたがシフティに擦り付けたんでしょ」 「ヒヒッ、正解!」 「お前最悪な兄貴だな」
良いから教科書貸せよと私の机から離れようとしないリフティに渋々教科書を貸すと満足気に私のクラスから去っていった。
「名前ちゃんってすごいよねぇ、あの問題児の双子と何の気もなしに話すし」 「そーそー、あの暴君生徒会長のスプレンディド先輩にも遠慮ないし」 「この前なんて校内一女タラシのランピー先輩のブツを蹴りあげたって話だし」 「名前ちゃんって本当すごいわ、さすが次期風紀委員長」 「これで現委員長のフリッピー先輩も安心して卒業できるわけだわ」
わらわらと机に集まってきた友人達に別に風紀委員だからって訳じゃないよと弁解しておく。風紀に入ったのは偶然だし、この学園に名が知れている連中とは昔からの面識があったからだ。全然知らなかったら多分関わってない。
「あいつら話してみればアホ丸出しだから全然怖くないよ?」 「えー名前がそう思ってるだけだよ」 「そうそう、あの先輩たちも前から面識がある名前ちゃんだからこそ何も言わないのよ」 「あー、それはあるかも。…でも、たとえ面識がなくても先輩たちには大して態度は変えてなかったと思う。特にランピーみたいな駄目人間には」 「ふふっ、名前ちゃんらしいね。そんな次期風紀委員長候補さまに飴ちゃんをあげよう」 「そんなって、どんなよ」 「んー、そこそこな苦労人?的な?」
なにそれ、なんてもらった飴を口に放る。あ、これ前にナッティが買い込んでたいちご味のやつだ。甘くて美味しい。
「次の時間なに?」 「政経、それ終わったらお昼休み」 「」
チャイムと同時に自分の席へと向かう友人と教室に入ってくる教師を眺めながら、静かに震えて主張する携帯のディスプレイをこっそりと見た。
「さむ…」
気がつけばもう10月も半ばだ。先月まで残暑の暑さにやられていたのが嘘なくらいに肌寒い。 ましてや学校の屋上だなんて風通りが良すぎてスカートの身にはさらに辛い。 まだ私しか来ていないのかと思えば先客が備え付けのベンチにごろりと寝転がっていた。
「…謹慎された人がなんでいるのかなあ」 「…リフに呼ばれたから。ってか今回の謹慎、俺じゃねぇし」 「謹慎の経緯は何となくわかってたけど…ここまでよく誰にも見つからずに来れるねぇ」 「まあな、学校のセキュリティなんてそんなもんって話」
シフティはニヤリと笑うと、起き上がって私の座るスペースを作ってくれた。こういうところがリフティとは違うんだよねぇ。できた弟くんですこと。
「肉まんとピザまんどっちか食べる?」 「両方」 「じゃあ半分ずつね」
学校付属の売店で買ってきた袋の中から肉まんを取り出し、半分にして渡す。 余談だが、ここの売店のいいところは食べ物全般の量やサイズが大きいところだ。よく生徒のニーズに答えられている。半分にしても通常の半分より大きなそれを二人タイミングよくかぶり付けば口の中に広がる暖かさと美味さ。
「…ってか、呼び出した本人が来てないとかなんなの」 「知らねぇよそんなの。俺もリフが来ねぇし……ってかお前もリフに呼ばれたんじゃねーの?」 「残念。私を呼んだのはあんたら兄弟が嫌いな暴君生徒会長様なんだよなあこれが」 「うわ、まさか説教タイムとかじゃねえだろうな、」 「いやあんたらが説教目的で呼ばれるのはわかるけど私は関係なくない?」 「俺らの躾が出来てないとかそんなん」 「いつ私君らの飼い主になったの」
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