其の三



 千草には銀時の部屋の隣室が与えられた。本拠地は廃墟となった屋敷を使用しており、決して広い屋敷とはいえないので、個室部屋は限られた数しかなかった。そのため、個室を与えられているのは銀時を含め、桂、高杉、坂本、その他数人の幹部組だけで、他の兵士は大広間に突っ込まれているという状態であった。
千草はそのこと知り、突然現れた自分が個室なんて使って良いのか自分なら大広間の隅の方で寝ても構わないと銀時に言うと

「あんなヤローどもの中で寝たら襲われちまうぞ」

と半ば呆れ顔で言われた。

「それなら……坂田さんと一緒の部屋にーー」
「あんた、自分が女だって自覚あんのか」

今度は盛大なため息と共に交わされた。千草は些か納得がいかないようではあったが、銀時の言うことも一理あると彼らの好意に甘えることにした。

「じゃあ、お言葉に甘えて部屋を使わさせて頂きますね」

ふと銀時は思い出し、千草にここで待っていろと告げると自分の部屋に入っていった。幾分もしないうちに銀時は手に着物を持って部屋から出てくると、千草に着物を差し出した。

「あんたのその恰好は目立ちすぎる。だから、これに着替えろ。生憎、女物はねぇから俺の着物だけど」

「あ、そうですね……有難うございます」

千草は礼を言いながら銀時から着物を受けとった。
なんで銀時は自分に此処までしてくれるのだろう。
最初は表情がなく無口な銀時を見てとっつきにくい人だと思っていたが、人は見た目によらないとはこう言うべきなのか、銀時は世話好きの優しい人だと千草は思った。

与えられた部屋は四畳ぐらいの広さで、中には既に布団が一組置いてあった。一体誰が運んだのだろうかと疑問を抱いたが、さして気にすることなく銀時から借りた着物に着替えることにした。着物を着たのは七五三の時以来で着付けは出来るだろうかと心配していたが、男物の着物は簡素な着付けで着れるようになっているようで案外、簡単に出来そうだと袖を通す。
が、袖を通してみたは良いものの、やはり袖や裾部分が盛大に余ってしまった。



「あぁ。着替え終わっーー」

千草が部屋から出てくると銀時が部屋の外で待っていた。銀時は千草を見ると言葉を途切れさせ、そしてクツクツと喉を鳴らして笑った。

「あんた、まるでガキが着ているみたいだぜ」

千草はというと、太もものあたりまで出た異様に長い尾羽処理をつまんで恨めしげに銀時を見上げる。

「仕方ないじゃないですか!大きかったんだから!」

それでもなお銀時は喉奥くで、くつくつと可笑しそうに笑う。普段、表情の変化があまりない銀時が此処まで笑うのを見たら、周りの仲間たちは「あの白夜叉が女相手に笑った」と珍しがるだろう。

「うぅ……!笑わないでください!なんか腹立つ!」

一頻り笑った後、今にも銀時の胸倉を掴みそうな勢いの千草の頭を銀時は一回撫でする。

「悪ぃ悪ぃ。この辺り、案内してやるよ」

ついてこいよ、と廊下を歩きだした。その後ろを歩きながら千草は銀時に撫でられた頭を触る。男の人に頭を撫でられたのは初めてで、少し恥ずかしくなる千草であった。



私の趣味で銀さんの着物を着せたかったんです。





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