其の十五 広間に行くと、桂を始めとする攘夷党の幹部が集まっていた。 「銀時、遅いぞ!全く、貴様はいつも遅刻ばかりしおって。もう少し幹部らしくだな」 足を踏み入れるなり、桂の小言が飛んできて、銀時はうんざりと顔をしかめた。 「朝からギャーギャーうるせぇよヅラ」 「ヅラじゃない、桂だ。........ん?銀時どうした、いつも以上にしまりのない顔だな。しかも、頬が腫れてるぞ。虫歯か?だから、寝る前にはきちんと歯を磨いておきなさいと」 「余計なお世話だこのやろー」 てめぇは母ちゃんか、とツッコミをいれながら、銀時は桂の頭を思い切り叩いた。 「大方、猫にでも手を噛まれたんだろうよ」 傍らで高杉がにやにやと笑っているのが憎らしい。 もとあといえば、てめぇが撒いた種だろうが。 そう文句を言いたいが、こんな大人数の前で女関連の揉め事など醜態を晒すようなものだ。 「いっつも猫に引っ掛かれる野郎に言われたかねぇよ」 どかりと腰を降ろし、胡座を掻いた足の上に肘を乗せて鼻を鳴らしながら、桂を挟んだ先にいる高杉に向かって言った。 「俺ぁ、別に引っ掛かれた覚えはねぇよ。ただ、向こうがひっつかみ合っているだけだ」 「かーっ!流石、色男は言うことが違うね。チビのくせに」 桂を挟んで、メンチを切り合う二人を前にして、軍義に参加していた参謀始めとする名も無きモブたちは呆れたように顔を見合わせた。 「また、始まったよ」 「銀時さんと高杉さんがこうなったら、止められるのは桂さんしかいねぇってのに、桂さん伸びてるし」 「おい、坂本さんと萩原さんはどうしたんだよ」 「お二人は物資の調達に今朝から行っておられるので留守です」 このなかで一番の頼りの綱である桂は床に顔をつけながら、伸びている。 というより、目をかっぴらいて変な声を出しながら寝っているのだが、銀時と高杉の喧嘩に視線が集まるせいか、誰も気がつかない。 鬼兵隊総督と白夜叉は、オニと称されることも多く、この二人の喧嘩を止められるような輩はまず少ない。 高杉なんて、刀に手をかけている。下手したら切り合いになって巻き込まれかねない。 おい、誰か止めろよ。 嫌だよ、死にたくねぇ。 やべぇ、総督今にもブチ切れそうだわ。 「……いい加減にして下さいよ、お二人とも」 勇者がいた! 誰もがそう思った瞬間であった。 「ひっ!?」 「あん?」 その静かな声は銀時の背後から聞こえたもので、銀時はきゃっと悲鳴を上げて飛び上がった。 背後には短髪の男がひとり。顔は逆行でよく見えないが、声には聞き覚えがある。確か……。 「白子」 「白じゃありません。黒です。黒子野太助です」 「白……じゃなかった。黒子野、お前いつからそこにいたんだよ。びっくり……いや、びっくりなんかしてねぇけど。いるなら、いるって言えよ」 「さっきから、ずっといましたよ」 黒子野はその影の薄さを買われて銀時たち幹部組の影の立役者として活躍している男である。 人一倍、気配に敏感な銀時や高杉でさえ彼が隣にいることを気がつかなかった。 目立たない存在ではあるが、こうして銀時と高杉の喧嘩をぴしゃりと止められるのは中々優秀な人材なのかもしれない。 「お二人とも、喧嘩はおやめ下さい。これじゃあ、何時まで立っても軍義が始まりません。ほら、桂さんもいい加減に目を覚まして下さい」 「む」 黒子野が桂の肩を叩くと、桂は弾かれたように起き上がった。 黒子野、すげぇ! モブ達の黒子野に対する評価が上がった瞬間である。 さて、軍議の内容というのは先日の戦で戦った天人の残党が身を隠している場所を掴んだという議題から始まった。 勝ち戦ではあったが、天人側の大将を取り逃がしてしまった。戦というのは敵の大将首を討ち取ってからこそ、勝利を納めるものである。 少数になった今だからこそ、奇襲を仕掛け大将首を討ち取るべきだ。我ら攘夷に勝利を! なんて、声が上がるや否や次々に拳を高く突き上げ「勝利を!」と沸き立つ野太い声。 「別に、勝ち戦だったんだし、そこまで拘らなくてもよくね?」 からっきし興味がなかった銀時は鼻をほじりながら言った。 「なんだ。銀時。奇襲はてめぇの十八番じゃなかったのか?今さら怖じ気づいたんじゃあるめぇな、白夜叉様よぉ」 からかうように高杉が言うので、銀時は青筋を立てて高杉を睨んだ。 「あん?んだと、こら。てめぇの部屋に奇襲して、血祭りにあげてやろうか?」 「やめんか、貴様ら。俺達が勝ったも同然なんだがな。……この牙狼族の奴らは少しばかり厄介らしい」 二人の口喧嘩をいなした後、桂は至極真面目な顔で皆を見渡しながら言った。 「牙狼族の長、ホロは武器の密輸に長けたやつでな。あの宇宙海賊春雨とも繋がりがあるそうだ。幕府が地球では使用を許可していないような兵器を春雨から横流しし、それを各地に散らばる天人どもにばら蒔いているらしい」 「噂に寄ると、ボタンひとつで江戸を滅ぼしちまうような兵器を輸送しようって話だぜ」 高杉の言葉に、どよめきが走る。 ーまじかよ、そんなの俺達生身の人間が勝てるわけがねぇ。 ー天人の兵器は恐ろしいものばかりですからね。 「勿論、負けるつもりは更々ない。俺たちは夷狄(いてき)から我が国を護るため此処まで走ってきたのだ。いくら兵器の調達に長けようが、兵器がなければ牙狼族など只のワンコだ。肉球がないのが惜しいが」 「おい、今はそんな話じゃねぇだろうが」 高杉が桂の頭を叩いた。 「肉球は大切だぞ、高杉!……まぁ、いい。とにかく、ワンコどもが弱っている今こそ、奴らの長、ホロを仕留めるチャンスということだ。そこで、みなが言うように奇襲を仕掛けようと思う」 そこまで言って、桂はひとつ咳払いをし、よく通る凛とした声で言った。 「相手は少数だ。そんなに大人数で仕掛けることはない。十数人程度いれば十分だろう」 「鬼兵隊は牙狼族が武器を調達している場所がある。そこを潰しにいくぜ」 にやりと高杉が笑うと、鬼兵隊の志士であろうもの達から歓声があがった。 総督、まじかっけぇ。 総督、俺はどこまでもついてきます! など、高杉を慕う声が飛び交う。 ーーけっ。チビのくせに。かっこつけやがって。鬼兵隊のやつら、崇拝し過ぎだわ。あのチビのどこがいーんだか。 胸の内で毒ずく銀時だが、高杉が人を惹き付け導くカリスマ性を持っていることは認めていないわけではない。 銀時にとって、國を護るだとか、侍の尊厳だとかそういうのは全く興味がなかった。 刀を握るのは、仲間を護るため。あの日、恩師と誓った約束を護るためである。 強力な武力でまた立ち向かわれてしまえば、いくら銀時とて護りきれる自信はない。 仲間の被害を少なくする為には、桂の言うとおり奇襲しかないのだ。 「敵は早い内に潰せってか。いーぜ。その作戦、俺が引き受けてやら」 「む。本当か。ならば、俺も一緒に」 「総大将が本陣を離れてどうすんだ。お前は此所に残れ。俺ひとりでいく」 「しかし、銀時。流石に、ひとりは」 「ならば、僕が行きましょう」 武神、白夜叉がいれば百人力。 そんな囁き声があがるなか、手をあげたのは黒子野であった。 「貴様は、確か……しろ」 「黒子野です。僕は目立たない人間ですから。敵の内情を探るには十分に役立つと思いますよ」 黒子野、それから銀時の部隊(銀時は隊長を務めているつもりは更々ないが、銀時の強さに引かれ自然と集まってきた者たちで出来た小隊である)から数名の有志が奇襲に参加することになった。 桂や高杉は地図を睨んで小難しいことを話している。元来、頭を使うのは苦手なので、銀時はこっそり抜け出した。 欠伸をしながら廊下をのそのそと歩いていると、銀時さんと背後から声があがり、銀時はきゃっと飛び上がった。 このパターン。また、あいつか。なんだっけ。 白…… 「黒子野です」 「おい、ひとの心を読むんじゃねぇよ。エスパーか」 振り返った先に、自分より頭ひとつ低い男、黒子野が立っていた。 「思いきり、声に出ていましたよ」 「ああ、そう。君ね、気配を消して近付くのやめてくんね?こわ……恐くねぇしビビっちゃいねぇけど。急に声かけられたら、刺客かなにかと間違えて抜刀しちまうよ、俺」 「はは。それは、怖い。銀時さんの刀は速いから、受け止められる自信はありませんね」 「いや、おたくなに呑気に笑ってんの?首ちょんぱだよ?怖ぇよ……はぁ。まぁ、いいや。んで、なんのよう?」 「ああ……そうでした。一介の下っ端である僕が言うのも野暮ってものでしょうが。……これだけは言わせて下さい。千草さんに謝ったほうがいいと思います」 「は?」 銀時は訝るように眉を寄せた。 「あれは銀時さんが完全に悪いと思います。銀時さんはもっと器用な方だと思っていたんですが……存外、不器用な方なんですね」 こいつ、見てやがったのか! かぁっと顔が熱くなるのを感じた。 全く気づかなかった。いくら影が薄いとて、人の気配に敏感な質なのだが。 きっと、誰かの気配に気付くほどの余裕なんてなく、それほどまでに焦っていたのだろうか。 まて……これ、めっちゃハズい。 ひとり悶々としている銀時をよそに、黒子野は口許を緩めた。 「大丈夫ですよ、誰にもいいませんから。……では、今夜は宜しくお願いしますね」 「……おう」 相変わらず、逆行で顔は見えない。 というか、黒子野がどんな顔をしているのか。銀時は分からなかった。 しかし、ひとつ確信したことがある。 黒子野は敵に回したら怖いタイプであるということだ。 印象に残らない顔というのは、戦場ではかなり優位になる。敵に悟られず命を奪えるし、或いは、味方を裏切っても顔を思い出せなかったら掴まえようがないということだ。 黒子野テツヤ?いや、太助だっけか? まさに奇跡の影の薄さ……幻のファイブマン……なんつって。 心のなかでひとりごちて、頭を掻いた。 ○ 銀時は救護所に足を進めた。 この時間帯、千草は怪我人の手当てだ、やれ薬の整理だのと救護所にいることが多い。 銀時たち率いる攘夷軍は廃奥や廃寺を拠点としながら各地を転々としていた。 たまに村にも身を寄せたりするが、平和な暮らしを望む村人たちにとって、戦を仕掛ける攘夷志士は疫病神だ。あまり歓迎されず、廃村をみつけては根城にする生活を続けていた。 現在、元は地主の屋敷だという廃屋に身を寄せている。戦の煽りを受けて数年前に廃村になったという。クモの巣だらけだった屋敷を掃除すれば、過去の栄華がわかるほど立派な内装が姿をみせた。 風呂はあるし、庭も広い。更には自室も宛がわれたため、悠々自適な生活が出来るので銀時はこの屋敷が気に入っている。 何時だったか風呂上がりの千草が「お風呂が広いのっていいね」と頬を蒸気させながら嬉しそうにしていた。 思い出したら、きゅっと胸が締まった。 やはり、千草の笑った顔がみたい。 敵陣に乗り込んで、もしかしたら運悪く命を落とすことになるかもしれない。 後悔だけはしたくなかった。 救護所にいくと、男達が数名、輪になってやいのやいの騒ぎながら、怪我の手当てをしていた。 戦に出る者達は、ある程度の手当ては出来るのである。 ひとりが銀時の姿に気付き「あ、坂田さん」と呟いた。すると、一斉に視線が此方へ集まる。 「よぉ」 いつものように気だるい口調で返しつつ、視線は室内を見渡し千草を探す。 姿は見えない。 なんだ、居ないのか。 「銀時さん。千草ちゃんに用ですか?」 「千草ちゃんなら、奥で薬の整理をしていますよ」 「いや、別に用ってわけじゃ……」 「俺らもう終わったんで」 「邪魔物はお暇しますね」 「あ、いや……おい……」 「じゃ、ごゆっくり」 男たちはニヤニヤと含みのある笑いを浮かべながら、てきぱきと身なりを整えて救護所を出ていってしまった。 寧ろ、居て欲しかったのだが。 二人きりになるのは些か気まずい。 皆して、ひとの顔を見れば一言目に千草だ。 千草と常に一緒にいるわけではないのに、どうしてだか千草とセット扱いされてしまう。 銀時が千草に好意を抱いているのは周囲の人間はとっくに気付いていて、互いに両思いだというのも知っている。 はよくっ付けとやきもきしながらも、戦場では圧倒的な強さを誇り畏れられる白夜叉が、ひとりの娘に対して不器用な恋慕を抱いている姿はなんとも微笑ましいもの。 攘夷志士たちの間では二人の恋路を見守るのが密かな癒しとなっていた。 勿論、銀時と千草は知らない。 奥の部屋に行くと、手を伸ばして棚の上のモノを取ろうとしている千草がいた。中々手が届かないのか、ピョンピョンと跳び跳ねている。 無意識に気配を消した銀時は背後から手を伸ばし、千草が取ろうとしていた紫色の小箱を難なく掴んだ。 「これか?」 「あ、はい。ありがとうございま」 振り返った千草がぎょっとした顔をみせた。 銀さん、と呟いた後、気まずそうに目を逸らす。 「ありがとう……。……それで、どうしたの?」 「……ちょっとな」 此れから夜襲を仕掛けに行く。 もしかしたら、最後かもしれない。 だから、千草に一言謝りにきた。 頭のなかで言葉は浮かび上がるのに、形として出すことが出来ず。 銀時は歯切れ悪く言葉を紡いだ。 「千草……その……。今朝は悪かった」 「……いいの……気にしていないから」 だったら、何故視線を合わせてくれない。 先ほどから手元ばかりをみて、俺を見てはくれやしないのか。 「千草」 「なに」 「千草、こっち向けよ」 「だから、なに、」 手を伸ばし、千草の顔を両手で包んで逃げないように固定する。 「はな、離してっ」 「嫌だ。離さねぇ」 ずっと距離を詰めると、千草がきゅっと目を瞑った。 「に、逃げないから……。だから、はなして……近いよ…」 と、小さな声がして、銀時は鼻先が触れそうなほど顔を近付けていたことに気付き、「悪ぃ」と慌てて離れた。 千草はふるふると首を振り、受け取った小箱を手元の棚に置いて、胸の前で手を握って銀時を見上げた。 黒い瞳が自分を見つめている。 それだけで、胸が詰まりそうだった。 握りしめた手が汗ばんで、気持ち悪い。 こっそり着物で手を拭い、銀時も千草を真っ直ぐ見つめた。 「……俺、千草に酷いこと言ったの、すげぇ後悔してる。本当にどうかしてたんだ。……お前と高杉が一緒にいるのをみて……その……ムカついてたんだよ……」 俗にいう、嫉妬だが銀時はその二言を口にして謝れるほど器用ではない。 「すまねぇって思ってる……そう簡単に許して貰えるもんじゃねぇって、分かってる……だけど、許してほしい……お前に、千草に嫌われたくはねぇんだ……」 ずるい、と千草が呟いたが、必死になっている銀時は気づかない。 千草の伸ばされた手が銀時の頬に触れた。 「私もね、銀さんに酷いこと言ったの。だから、お相子だよ。……痛かったよね、頬っぺた。ごめんね」 「……自業自得だろ」 柔らかな温もりの心地よさに、陶酔してしまいそうだった。 もっと、温もりを感じたい。 知らずと、頬に添えられた千草の手を掴み、猫のように頬擦りをしてから、掌に口づけた。 「ひゃっ!」 「…………!?わ、わ悪ぃっ」 千草の驚いた声にはっとして、慌てて手を離す。 二人して真っ赤になって、互いの顔が見れずにいた。 なんとも妙な甘酸っぱい雰囲気に、銀時は鼻の先がむず痒くなった。 「……今夜、ちょっとした奇襲を仕掛けにいく」 「え?そんな、急に……?」 「そんな規模のデケェものじゃねぇし、奇襲は俺の十八番だしよ、大丈夫だって。死にやしねぇよ。……それでよ……、俺が帰ってきたら、お帰りって言って欲しいんだ……俺ぁ……その……あの……う、うまく言えねぇけどよ……お前にお帰りって言われんの……す、……き、嫌いじゃねぇよ……」 「……へ、あ……」 みるみるうちに千草の顔が更に赤く染まり、つられて銀時もまた顔を赤らめた。 何を言ってんだ、俺。 なんで今日はこんなに口が滑るんだ。 「……そんなこと言われたら自惚れちゃうよ」 千草の小さな呟きは、俯き視線をさ迷わせ、あーだとかうーだとか歯切れ悪く口をまごつかせ、恥ずかしさで死にたくなっている銀時に聞こえるわけもなく。 汗ばんだ手に柔らかな温もりが触れて。 はっと顔を上げた。 「銀さん」 銀時の手を両手で包み込んだ千草が、真っ直ぐな眼差しを寄越しながら恥ずかしげに笑う。 「……私も、お願いしていいかな。……気をつけて、必ず帰ってきてね。おかえりって、言わせて……私は銀さんの……"帰る場所"でいたい……から……」 「……っ!」 熱風が胸を吹き抜けた。 好きだ。好きだ。好きだ。 抱き締めてやりたい。口付けたい。 込み上げる劣情は身体中を駆け巡り、抑えきれない衝動が沸き起こる。 好きだ。 でも、俺にそれを言う資格があるのか。 命を奪い、血を浴び続けたオニが。 誰かを愛していいものだろうか。 それにもし、断られたら。 怖い。 もし、両思いだったら。 嬉しい。 恋人同士になって直ぐに出る戦。 よくあるフラグで死んでしまったら。 嫌だ。千草を悲しませたくはない。 それでも、若い銀時には衝動を抑える全を知らない。気づけば、口が勝手に動いていた。 「……千草……。ちょっとだけ……ちょっとだけ……抱き締めていい?」 「……っ」 何言ってんだ、俺。 でも、後悔などなかった。 顔を真っ赤に染め上げた千草が、小さく頷くのを確認して、銀時は遠慮がちに手を伸ばす。唇をきゅっと結んだ千草の睫毛の先が揺れている。 「なに、緊張してんの」 「ちが、」 からかって、千草が反論しようとする前に、背中に腕を回して、そっと抱き締めた。 薬品と、石鹸と、陽だまりの匂い。 小さな身体は、折れてしまいそうなほど細く。 護ってやりたいと庇護欲が掻き立てられる。 千草が欲しいと、離したくないと思った。 「……銀さんだって、緊張してるくせに……」 「うるせー。これはあれだ、不整脈だ」 「不整脈って……」 クスクス笑いながら千草も銀時の広い背中に腕を回す。 「私は待っているから。でも、あまり無茶はしないでね。約束だよ」 「……おう」 死ぬ気は更々ない。今までだって何度もこなした奇襲だ。この奇襲が上手くいったら、褒美に 千草を抱き締めて、好きだと言って、唇にキスしてやりたい。 千草に気付かれぬよう、髪に唇を落とした。 prev list next |