其の九※ *銀時×モブ女の性描写があります。 憂鬱な朝だった。戦が再開してからは毎日のように戦って、天人を斬って、血を浴びる。それの繰り返しだった。 ーーたしか、今日、戦はないんだったけ 銀時は布団の中で天井を見つめながら、昨夜の夕飯時に桂に言われた事を思い出した。 戦に行かなくて済むのに何故、こんなにも憂鬱な気分なのだろう。頭の奥でぼんやり考えていると、廊下を騒がしく歩く音がした。 「金時ぃ、起きちゅうかぁっ!?」 壊れるくらい勢いよく襖を開けた坂本が、これまた屋敷中に響き渡る程に、大きな声を出して入ってきた。 「何だよ、朝っぱらから。うるせーよ。それに銀時だっつーの。いい加減、覚えやがれ馬鹿モジャ」 欝陶しそうに頭をかきながら銀時は起き上がった。 「あはははは。まー固い事言わんと、町にいくぜよ!町に!」 「町?なんでまた」 「ヅラにお使い頼まれたき。ほれ、なんちゃらっちゅうパトロンへの渡さなあかんもんがあるらしゆうてのう。ほれ、おまんも準備せんか」 坂本は銀時の腕を掴むと布団から引きずり出した。 「ちょっ、何で俺も行くんだよ。ぱんたろんへの媚売りはお前らの専門だろ」 「パトロンがよ。むこうのおっさんがの、おまんのことを偉く気に入っとってのう。ちっくと顔を合わせてやってくりゃあせんじゃろうか」 「げぇ。おっさんに好かれても嬉かねぇよ。気色悪ぃ」 おえっと舌を出した銀時に対して、坂本は更に笑みを深めるだけであった。 「まーまー帰りに、一杯くらいどうじゃ。奢るき」 一杯という言葉に、銀時は眉をぴくりと動かした。此のところ、酒にすらありつけていないので、酒が飲めるのは有り難い。銀時はほんの数秒悩んだ素振りを見せて、「それだったら、行くわ」と頷き返した。 ◎ 初夏のこの時期、井戸水は生ぬるくなる。これじゃあ、眠気も覚めねぇなと思いながら顔を洗っていると、「おはよう」と背後から千草に声をかけられた。 銀時はどきりとした。千草を脳内で犯す想像をしながら自慰をして以来、彼女の顔をまともに見ることが出来ない。最近は野営も続くこともあって、顔を合わすことすらままならず助かっていたというのに。やはり気まずくて仕方がない。 銀時はついと視線を外し、肩に掛けた手ぬぐいで顔を拭きながら「はよ」と返した。 「もう、顔洗うの終わった?私、使っていいかしら」 「あ、ああ」 千草は至って普通に接してくる。あの日のことを何とも思ってはないのだろうか。ひとり悶々とする銀時を他所に、千草は井戸の水を汲みながら銀時に話し掛ける。 「今日は朝早いんだね。戦がない日は、私が起こすまで起きないのに」 千草の黒い髪がさらりと揺れ、項が露になる。 夏の日差しに照らされた白い項はほんのりと汗ばんでいた。思わず生唾を飲み込む。 「あ、ああ。今日は坂本と町に行くんだ」 「町に?……私も行きたい。一緒に行っていい?」 急に振り返った千草がぱっと華やいだ笑顔を見せるので、銀時はどきりとした。 「あー。今日はな、買い出しじゃねぇんだ。悪いが、お前は連れてけねぇ」 「……そうなんだ」 「……また今度、連れてってやるよ」 「じ、じゃあ!指切り!」 千草は銀時の目の前に立てた小指を持ってくる。 「お、おう」 一瞬、躊躇った後、銀時は千草の小指に自分の小指を絡めた。細い小指だった。このまま指に力を入れてしまえば折れそうなほどに細く、白い。頭ひとつぶん低い位置にある頭。黒い艶やかな髪は旋毛が綺麗に揃っていた。羨ましいと思う反面で、その柔らかな髪に触れ撫でてみたいと欲が芽生える。伏せられた目元に影を作る意外と長い睫毛。何よりも、彼女から香る石鹸の香りが銀時を惑わす。 指切りげんまん嘘ついたら針千本飲ます。 ふふ、と嬉しそうに桜色の唇を緩めた千草が「約束だよ 」と微笑んだ。 途端、銀時の心の臓が激しく高鳴る。何かが胸の奥から込み上げてくるのを感じた。 かぁ、と熱くなる。慌てて顔を背けた。千草は気付いただろうか。頼むから、気付かないでくれ。 「……ま、街に行くだけで大袈裟だぜ。お前って、本当に子供みてぇだな」 誤魔化すように皮肉を言えば、煩いと小さく小突かれた。 ◎ 桂に頼まれた遣いは攘夷活動の支援をしている商屋に文を渡し、また商屋から桂への文を受け取るというものであった。とんとん拍子にことなき事を終えた銀時達が向かった先は、朱塗りの 「……辰馬、此処ってどう見ても遊郭じゃねぇか」 「遊郭以外の何があるかや」 「俺ァ、酒を飲むためについて来たんだけど……つーか、みるからに敷居の高そうな所なんだけど。金ねぇよ、俺」 攘夷志士の生活費や武器の費用は、一般人の善意(とはいっても戦争を長引かせている志士を嫌っている人が大半なのである)や志士の家族等から支援されたお金で賄っているのだ。 そんなごく僅かな資金を女遊びには使えないと、大半の志士は同性を抱いて性欲を満たすか、または、休戦の時期に近くの町で仕事等をして稼いだ金で女を買うといった感じである。銀時の場合、大半は女から言いよって来る事が多いのでその面では不自由は無かったが。 「此処はわしの昔馴染みの所でのぅ。金の方は心配すんなや。それに遊郭でも酒は飲めるじゃろ」 「……そーいや、てめェボンボンだったな。てか、何で俺?荻原とか高杉でも良いんじゃね?」 「二人とも生憎今日は別の用事があってのお。ヅラは遊郭にはあんまり興味持っちょらんし、銀時しかおらんかったき」 さぁ、さぁ!と坂本は銀時の腕を引っ張った。 銀時はため息をつくと、ご無沙汰だったから、まぁ良いかと素直に坂本に引きずられ立派な門を潜った。 「ようこそ、いらっしゃいました坂本様。随分とお久しぶりで」 深々と頭を下げながら二人を出向かえたのは小綺麗な身なりをした男主人だった。 「久しぶりじゃのぅ。今日はわしの友も連れて来たき。とびっきりの女と酒を用意するぜよ」 それからはドンチャン騒ぎであった。相変わらず坂本の馬鹿騒ぎ加減に呆れるも、こんな休息もたまには良いかと銀時は酒を仰ぐ。 それから暫くすると、銀時は窓際で酒を嗜みながらぼぅと月を眺めていた。 「なぁ、兄はん。うちらも楽しみまへんか」 京訛りのある女が銀時にすり寄る。月を眺めていた銀時はついと視線を寄越した。涼しそうな目元にすっきりとした鼻筋の、島田くずしの髷が似合う美しい女。紅がひかれた形のよい唇を曲げ、しんなりと銀時に寄り掛かっている。 誰だっけ、この遊女のねぇちゃん。 美人は直ぐに名を覚える筈なのに、名前が思い出せない。坂本に助け船を求めようと座敷内を一瞥するが、肝心の坂本の姿が見えない。 「……坂本は?」 「坂本はんなら、別の部屋にいはりやす」 女の白い手が銀時の着物の合わせ目の中へ忍ばされ、胸板を撫で回した。 「あら。兄はん意外と良い身体してはるんね」 くすくすと笑いながら、女は銀時に股がり自身の着物の帯を解く。開けた着物から女の豊かな白い乳房が見えた。 「うち、兄はんみたいなええ男に抱かれたいわ」 「……姐さん、誘うの上手いね。流石、プロだわ」 銀時は女の腰に手を回すと、その細い首筋に舌を這わせた。 「あぁっ!兄はんっ凄いわぁっ!」 銀時の下で喘ぐ女は、銀時の背中に腕を回すとしがみつき、自ら腰を動かした。 快楽に歪んだ女の顔は、それでも美人だった。 こんな美人を抱けるチャンスは二度ないはずだ。 銀時もそれを愉しむかのように口の端を持ち上げた。 ふいに銀時の頭の中で、あの日の夜の千草の姿が甦る。目の前で弾む乳房よりも小さな乳房であった。 たゆたゆと揺れる女の豊満な乳房を掴む。女は更に高い声で啼いた。 ーーあいつのおっぱいは、こんなにでかくはなかったよなぁ。 千草の乳房は掌にすっぽりと納まる控えめな大きさで、つきたての餅のような感触であったか。掌は覚えている。 どうしたって、あの日の夜の千草の姿が、自慰の材料として脳内で犯した千草の姿が消えてくれはしない。寧ろ、目の前で淫らに喘ぐ女より、涙に濡れ乱れる千草の姿を想像することで己の肉棒は怒張し、今までにないぐらい興奮するのだ。 ーー約束ね。 今朝方、自分に向かって微笑んでくれた千草が頭の中で延々と再生される。 くそ、一体なんだってぇんだっ。 銀時は女に聞こえぬよう小さく舌打ちすると、その思いを振り払うように更に激しく女のナカに打ち付けた。 prev list next |