其の五



「ほんま千草さんが来てくれて助かりました」

と、目の前の美少年は洗濯物を絞りながら笑った。この美少年、名は三太と言う。
千草が来るまでは三太が掃除や洗濯の切り盛りをし、料理が苦手な三太の変わりに食事は他の男達が当番制で作っているという状況だった。そこに千草が現れ男達の変わりに食事を作ると、皆、旨い旨いと涙を流しながら頬張っていた。千草は大袈裟だと笑ったが野郎が作る飯より数倍旨いと言われる始末になってしまった。

「今まで一人で大変だったでしょう。これからは一緒にやって行こうね」

「はい」

これまたなんて可愛らしい笑顔だ、と千草は目の前の美少年の笑顔にときめきを覚えた。小柄で、その返の少女より可愛いらしい顔立ちの三太なだが、実は凄腕の忍で密偵として攘夷戦争に参加しているという。人は見かけに寄らぬものだと千草は思った。

「それにしても、戦って毎日している訳ではないんだね。よっこいしょういち!」

最後の一枚を絞り終え千草は立ち上がると、長い事屈んでいたおかげで痛む腰を摩る。

「ええ。なんや、今は天人が動かないらしく、しばらく戦はないみたいですよ。たまには息抜きも必要ですやん。ほな、やっと絞りも終わりましたし干しに行きましょか」

千草と三太が一緒に籠を持ち上げようとした時、男が来て三太に桂が呼んでいると言付けを伝える。

「僕、これから洗濯物干すんやけど………」

三太は困った顔をして千草を見た。

「後は私がやるから大丈夫だよ。急用だったらいけないし、桂さんところ行っといで」

「千草さん、えらいすんません。ほな、行ってきますわ」

三太は千草に謝るとその場を離れた。
一人残された千草は山積みされた洗濯物を見つめ、籠を持ち上げた。

「うっ重いっ」

確かな重みが腕に伝わりやはり、物干し場まで一緒に持っていってもらった方が良かったと悔やみながら、千草はえっちらおっちらと歩いた。


「あんた、大丈夫かよ」

背後から声をかけられ千草は首だけを動かして振り返ると、其処には銀時が立っていた。

「あ。坂田さん」

「貸せよ。俺が持つ」

銀時は籠を千草の腕から軽々と持ち上げた。

「あ。すいません」

「気にすんな」

銀時が歩き出したので千草はその後を追う。


「あの。坂田さん。重くないですか?半分持ちますよ」

「これぐらい平気だって。一人で持てる」


洗濯物を運び終えた銀時が、今度は干すのを手伝うと言ってきたので千草は内心驚いてしまった。幹部である人にここまで遣らせてしまって良いのだろうかと思ったが、逆に彼の優しさを断るのも気が引けたので、お願いしますと頭を下げる。
暫く、二人は無言のまま洗濯物を物干し竿に干していく。ふいに銀時が口を開いた。

「あんた、敬語を止めろ」

「へ?」

「敬語使われると痒くて仕方ねぇんだ。だから俺に敬語は使うな」

「わ、わかりまし………あ。うん、わかった」

千草は洗濯物の皺を伸ばしながら、うぅんとう唸り、何か思い付いたように銀時を見た。

「銀さん」

「あ?」

「あの。敬語使わないで坂田さんって呼んだらなんかしっくり来ないでしょ?銀時って呼びすては私が嫌だし、寅さんみたいに銀さんが1番しっくりくるの。だからこれから貴方のこと、銀さんって呼んでも良いですか?」

「……とらさん?」

「あ、『男はつらいよ』っていう話の主人公の人。寅次郎だから寅さん。だから貴方は、銀時だから銀さんという感じかな」

突然、銀時が吹き出した。千草か
ら顔を背け、肩を振るわせながら喉奥を鳴らす。千草は何事かと銀時を見つめた。と、銀時の腕が伸びてきて、大きな手が千草の頭を撫でる。

「別にかまわねぇよ。千草。ありがとな」

銀時の表情は、千草が出会って初めて見た、とても綺麗な微笑みだった。千草は自分の頬が熱くなるのを感じた。








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