其の四



 まず案内させられたところは離れ小屋だった。雨はとうに止でおり、泥濘んだ地面を足に泥が跳ねないようにー草履も銀時が貸してくれたーと慎重に歩きながら千草は銀時の後を追う。小屋の近くに来た時に薬品の臭いがつん鼻を掠めた。

「救護所ですか?」

千草が尋ねると銀時はこくりと頷いた。

「よくわかったな」

「薬品の臭いがしますから」

カラカラと音を立てながら戸が開き、中には数名の男達が手当てを受けていた。

「久坂」

銀時に名を呼ばれ、何だと歩み寄ってきたのは、二十代前半の、ひっつめた髪を頭の後でくくった男だった。久坂と呼ばれた男は千草を見つけるとニヤリと笑った。

「君がヅラの言っていた『銀時の色小姓』千草ちゃんか」

「久坂。てめー斬り殺されてぇか」

銀時が刀の柄に手をかけ今にも抜刀しそうな勢いだったので千草は慌てて止めに入る。

「さ坂田さん!刀を抜いちゃ駄目です!私、いろ小姓と言われても大丈夫ですから」

「……あんた、色小姓の意味を知ってんのか?」

「え?色々と坂田さんの身の回りの世話をする小姓ですよね。だからいろ小姓?」

と千草が曖昧な歴史の記憶をたどりながら言う。暫く沈黙が訪れ、銀時はため息を付き、久坂は笑いだした。

「うはははっ!まあ、そういう意味もあるな!色小姓つーのは、夜の事情を銀時とイロイロやるっつーことだぜ」

久坂に厭らしく笑いながら言われて色小姓の意味が解した千草は顔を真っ赤にし、慌てて否定をし始める。

「な、なな何言ってるんですか!そっそんな馬鹿なことあるわけないですよっ!」

千草はちらりと銀時に目を向けると銀時はこれまた無表情な顔をしていた。

「心配すんな。俺はあんたと夜を共にする気はさらさらねぇから」

まるで興味がないという銀時の口ぶりも自分には女の魅力がかけているのかと些か失礼な気がしたが千草はあえて何も言わなかった。

「それに俺は抱くならもう少し胸のある女がいい。あと、色っぽかったら尚よし」

流石の千草も今度は頭にきて銀時の足を踏み付けた。

「ってぇ!」

その場に踞り踏み付けられた足を押さえる銀時を尻目に千草はフンと鼻をならした。

「そんなの、こっちから願いさげです!」

ふぃっと顔を背け、千草は久坂が手に持っていた包帯を奪い取る。

「これをあの人達に巻けば良いんですよね!?」

「へ?あ、ああ。」

久坂の返事を聞くとどすどすと足音を立てながら部屋の奥に去っていった。

「お前があんな事言うから怒っちまったぞ」

久坂が半ば飽きれ顔で振り返ると、くすくすと笑う銀時がいたので久坂はぎょっとする。銀時の笑った顔は、久坂自身もここ最近ご無沙汰だったのでどうしたものかと尋ねる。

「な、何で笑ってんだ?もしかして、足踏み付けられて嬉しかったのか?お前マゾ?」

「んなわけねぇだろ。どっちかっつーと俺はSだ。つーか何言わせてやがんだ」

「うお、お前のノリツッコミなんざ久々に聞いたよ」

「うるせー。……あいつは見てて飽きねぇな」

「さっきの反応は初々しかったな。良いねあーいう初々しいさ」

「久坂。言っとくが、あいつに手ェ出したりしたら斬るぞ」

「あー安心しろ。俺ァ、好きな奴がいるし。それよりも、坂本と荻原には目を光らしておけよ。あいつら、女好きだから」

そういやそーだった、と銀時は頭を掻きながら、怪我を負った兵士に包帯を巻く千草を見つめた。

久坂はそれを、銀時と千草を交互に見ながら、先程の銀時の様子を皆に話しても誰も信じてはくれないだろうと思うのであった。







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