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 命令というより、ただ怒鳴りつけるだけのような若い女性の声が、レイの後方から響く。
 それを聞いて、レイはうざったそうに振り向く。振り向いた先に立っていたのは、AMUSの制服を着、ブロンドの髪を一つに束ねた女性が立っていた。
「……また君か……いつまで僕の邪魔をする気なんだ」

 また。その言葉が指し示すように、二人は初対面ではない。
 AMUSΩ(オメガ)暗殺部隊所属である兵士、エミリア=コンフォート。それが女性の正体だった。彼女は以前からもレイを追っていた。もちろん、「犯罪者レイ=ザ=スカイの拘束」を目的として。だが、その執念は些か常識を逸していた。
 かれこれもう二年はレイを追い回しているのだ。それも、他にあるはずの任務より優先して。
 よくそれでAMUSに居られるものだ、という話だが、レイにとっては彼女が邪魔で邪魔で仕方がない。いくら女性が好きなレイでも、流石にこのしつこさは理解できなかった。

「邪魔、ではありません。貴方の横行を止めようとしているだけです」
 それが邪魔だと言うのに、ぼそりとそう呟くレイ。
 だがエミリアは、レイの言葉など聞こえていないかのように――実際聞こえていなかったのかもしれないが――攻撃体勢を取る。
「いい加減大人しく捕まったらどうです? ……何を思ってこんなことをしているか、想像もつきませんけど……今の生活より、AMUSの牢屋に入っているほうが確実に幸せになれますよ」
 穏やかな発言をしているつもりなのだろうが、彼女からは並ならぬ殺気が漂っている。少なくとも、無傷で事を運べはしないだろうと、レイは察知していた。
「牢屋で死刑を待つことが幸せなわけないだろう。君こそ、僕を追い回すだけの生活なんてやめて、普通の女性らしく過ごせばいいものを……」
 瞬間、レイの頬を銃弾が掠めた。それに反応して、レイは横に跳ぶ。すぐに、レイが元いた場所を弾丸が何発も撃ち抜く。エミリアの手には、銃剣がしっかりと握られていた。
 彼女の表情は固い。もう話を聞く気も、挑発に乗る気も無いのだとわかる。だがあえて、レイは彼女を挑発する言葉を紡ぐ。……最も、本人が意識して挑発しているのかは謎だが。
「そのくらい一途に人を思えるなら、さっさと相手でも見つけて結婚するのが一番じゃないのか?」
 当然のようにエミリアの返事はない。ひたすらレイを狙って撃ち続け、リロードを繰り返すだけだ。
 いつしか、幾つか軽口を叩いていたレイも流石にそれを止め、避ける事だけに集中し始めるようになっていた。
 


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bkm
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