「…………!!」

 椿は、飛び起きた。
 何度か首を回したり、どう動かしても痛みがないことを確認して、ようやく自分は夢を見ていたのだということに気づく。
「……夢、か……」
 毛布を蹴っ飛ばして起き上がり、椿は直ぐに自分を囲むように配置されている棚を確認し始める。
 棚に飾られているのは、人の生首。しかも、1つや2つではない。
 椿の両親、姉、友達、知り合い……ざっと2,30個近く、きれいな状態のままで、それは並べられていた。
 1つも欠けていないことを確認すると、椿は安堵したように息をつく。
 そして、家族の生首を見て、恍惚とした表情を浮かべ始めるのだ。
(綺麗だ……母さんも父さんも、姉さんも、いつ見ても……)
 そして、椿がその生首達に頬ずりしようとした瞬間、乱雑にドアが開かれた。

「珍しく起きてると思ったらこれだよ……。生首愛でてる暇があるなら、さっさと外に出てきてくんないかな、椿?」
 ドアを開いたのは、紺色の甚平を来た青年。男性にしては少し長い、薄水色の髪が特徴的と言えるだろうか。
 明らかに青年の機嫌は悪そうだ。
「……露草か、相変わらず目つき悪いなお前」
 相手の機嫌が悪いことを察しながらも、椿は敢えて挑発するような言い方をする。
「君には言われたくないけどね。……ってか、今日でしょ? ここ出るの」
「ああ」
「なら急いでよ。山吹なんか、もう準備終わって外で待ってるんだからさ」
 それだけ言うと、露草と呼ばれた青年はまたドアを乱雑に閉め、出て行った。
 ドアの振動で、棚に飾ってあった生首の内1つが転がり落ちる。
「…………」
 元の位置に直そうと、椿はそれを拾い上げる。
 拾い上げた瞬間、切り口で蠢く黒い――――黒い何かが、椿の目には映った。
 それを忌々しそうに一瞥すると、椿は雑に生首を棚に置いた。
 そして、ボロボロの床に置いてあった風呂敷を掴んで、小さな小屋を飛び出していった。



prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -