銀時と妙


前略

お元気ですか。お仕事のほうは順調でしょうか。あまり無茶はしないで下さい、というのはもう随分前から言っていますが貴方に言っても無駄なのは百も承知しています。

さて、今日は貴方に話したいことがあるのです。面と向かっては上手く言えそうにもないので、こうして筆をとらせていただきました。あなたと結婚して三年がたちました。出会ってからは五年です。結婚して変わったことと言えば名字や住まいぐらいですね。 毎年四人と一匹で花見をして、真選組のみなさんなんかもいて、時には旅行をして、やっぱりそこでも変な事に巻き込まれて、たまにできたお金でちょっと豪華なものを食べて、年の瀬はやっぱりみんなで過ごして。結婚してもストーカーは治まらないし、桂さんは攘夷に誘うし、私はキャバクラで働くし。ほら、なんにも変わらない。だけどわたしはそれがうれしかったんですよ。知っていましたか?

ぎんさん、私の病気は治らないのね。なんでも頭の、脳の病気だとか。手術もできない場所なんだって。ごめんなさい、隠してくれているのに知ってしまったの。だけど貴方は、私が気付いていることにさえも知っていたかもしれませんね。勘がいい人だから。「忘れる」というのは何と厄介な病でしょうか。私はこれから、たくさんの事を忘れてしまうのかしら。日に日に誰かを忘れて、たまに思い出すような、そんな毎日になるのかしら。ごめんなさい。せっかく結婚したのに、子供ももう産めない。貴方に血のつながった家族を捧げられない。 だって子を忘れてしまう母親なんて、そんなのってないですよね。ごめんなさい。貴方がどこで何をしていても此処で待っていると決めたのに、それも出来そうにないです。ごめんなさい。ずっと側にいると、約束したのに。わたしは忘れてしまう。貴方を一人にしてしまいますね。本当は寂しがり屋で、でも強がりで、人より優しくて、人より傷つきやすくて、きっとぎりぎりでたくさんのものを背負っていて、だけどそれが力の源で、だから死ぬ気で守っている。そんなあなたを、わたしは支えたかったの。そんなあなたがすきだったから。あなたの護るものはわたしが支えると決めたのに出来なくなってしまいました。あなたやみんなを悲しませるわたしを、どうか許して下さい。

ひとつ、伝えておきたいことがあります。わたしはね、銀さん。あなたと出会って、恋をして、結婚して、たくさんの時を過ごして、とても幸せです。世界で一番わたしが幸せです。きっとそれに嫉妬した神さまが私の記憶を消そうとしているのよ。だけど覚えておいてください。忘れたって、わたしは幸せです。忘れたって、あなたやみんなを想っています。おねがい、どうか信じて下さい。ずっと想っています。いつも想っています。ねえ、ちゃんと届いていますか?だから、自分を追いつめるようなことはしないでください。
体には気を付けてください。お酒は控えめに、ギャンブルもね。食事も睡眠もちゃんと取ってください。無茶はしないでください。笑っていて下さい。幸せでいて下さい。どうかどうか、あなたが、みんなが、私のすきなひとたちが幸せでありますように。

長くなりました。
まだまだ書きたいことはありますが、もうすぐ貴方がお見舞いに来る時間です。
では、失礼します。
かしこ
坂田 妙

坂田 銀時さま



追伸
わたしが銀さんを忘れたら、ぎんさんもわたしをわすれていいよ。あなたをいつまでも縛りつけていたくはないのです。
ぎんさんは好きな人と、すきなばしょで、すきなように生きて


あいしてる。






きれいな白い便せんを見つけたのは新八だった。病気を患って約二年後、彼女が既に俺を忘れてしまった頃だ。俺と新八と神楽とそれぞれに手紙があった。万事屋の額裏にいくつかの写真と共に置かれていたのだ。それを見つけた新八の手はふるえていた。神楽は目にいっぱいの涙をためていた。おれは、どうだったかな。妙のことだ。きっと後のことを考えてこの手紙を書いたんだろう。自分より、家族を思って。この見つけやすそうで、なかなか手入れをしない額裏に入れたんだろう。手紙の文字は凛としたものだった。二年前の妙に会えたようで俺はそっと目をつむる。

だけど、追伸からの文字は、ふるえていた。




いつだってあなたを想う
(わたしのおもいが、届きますように)


ニーナ(2011/11/30)



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