銀時と妙


寒い日は志村家のこたつで鍋に限る。雪かきの仕事を早々に切り上げた万事屋の三人プラス一匹と、仕事が休みであった妙はもやしでかさ増しした鍋で夕食をとった。まるで喉に詰まりそうな勢いで食らいついていた子供たちと銀時に妙はため息をつく。いい加減ちゃんとご飯くらい食べさせて下さいな。言葉を無視するので頬っぺたをつねってやると素直にごめんなさいが返ってきた。その後やっと満腹になった新八と神楽は幼子のようにこたつの中で眠りに落ちる。銀時の正面に神楽が、妙の正面に新八がいて、新八と神楽の間には大きな定春が丸まっている。犬である彼の目もとろんと微睡んでいた。風邪を引くわよ、と言う妙の声も咎める気のない優しいものだ。銀時はこほんとひとつ咳をしてテレビ画面に視線をやった。面白くもないバラエティ番組の後は今流行りのドラマが始まる。窓の外で雪がまたちらつきはじめていた。

「寒いな」

ちゃぶ台に顎を置いたまま、女を見る。

「ええ、今日は冷え込みますね」
「また雪ふってる」
「あら、本当。寒いはずだわ」
「あーさむいなー、まじで」
「こたつの温度上げますか」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあ半纏持ってきましょうか」
「いらない」
「お風呂でも沸かします?」
「いや、そうじゃなくて」
「どうしたんですか」
「だから、寒い、から…」

もごもごと口の中で何かをつぶやいてうつむく。もう、なんなんですか。煮え切らないわね。苛立ちながら妙が眉をひそめた。

「熱いお茶でも入れろってこと?」
「ちっ、げーよ」

湯を沸かそうとしたのか、妙の立ち上がる気配を読み取って銀時が顔を上げる。はなれてしまわないでほしい。

「…っちょ、」
「これでいい」
「銀さ、」
「寒いんだから、これでいいだろ」

こたつの柱って邪魔かもしれない。堪えきれずに笑う妙を睨んで、銀時は左手でテレビのリモコンをとった。チャンネルを変えても知らないドラマばかりだ。つまんねえ。





「…どうしたアルか?ふたりとも」


しばらくして、むくっと起きた神楽がデザートのアイスを食べようとはしゃぎだした。冷凍庫からコンビニの袋を取り出してくる。
すっかり目を覚ました神楽はビスケットのサンドアイスとコーンアイスで無理やり起こされた新八はアイスもなか。妙はもちろんハーゲンダッツ。そしてあずきバーがなかった銀時は仕方なくカップアイスのイチゴ味だ(ハーゲンダッツでは、ない)。

「あら、なにが?神楽ちゃん」
「どうもしねぇよ、別に」

寝ぼけてメガネも外したままアイスを頬張る新八の鼻にバニラが付きそうだ。神楽はじいっと銀時と妙を見る。やはり様子がおかしい。

「んー、なんか」

そうだ、どこがおかしいかと言うと。

「おぎょーぎが悪いネ」

おぎょーぎ、とはお行儀のことだろう。妙がいつも神楽や銀時に使う言葉。こら、お行儀が悪いわよ。だって、と神楽がアイスをかじりながら言う。

「アネゴは左手使わないで食べてるし、銀ちゃんは…」

たしかに、カップアイスで片方の手を添えずに食べるのはいささか行儀が悪いかもしれない。しかしそんなことより銀時のほうがよほど怪しいだろう。

「左利きだったアルか?」

凍ったイチゴ味のアイスがプラスチックのスプーンをはねのける。舌打ちをしてめげずにスプーンを刺そうとすればカップごと逃げて行った。さっきからそればかり繰り返している。利き手でなければ余計に難しいだろう。

「…るせーよ。右手は今日使いすぎたから休ませるの」

わけのわからない屁理屈を並べて、休んでいる右手は決してこたつから出そうとしない。

「ほんと世話のかかる右手よねえ」
「…ってめ」
「あら、離します?」

意地悪げに笑った妙が己の左手を引くと、強い力で閉じ込められた。

「寒いからだめー」
「アイス食べてるくせに」
「かわいくないね、ほんと」
「よく言うわ」

ばたん、やり取りをする二人の前で神楽が仰向けに身体を倒す。コーンアイスをくわえたままだ。お行儀が悪いわよ、とは言えない妙は喉に詰まらせないでねと声をかける。

「おい新八ィ。見てらんないアル」
「僕にふらないでよ、神楽ちゃん」

寝ぼけたフリを貫く新八もアイスもなかに集中することに決めた。ツッコんでなんかやるもんか。自分ができる一番強烈なツッコミを入れてもどうせあの人たちには効かない。そう思って、少しだけ視線を銀時と妙にやる。ああもうバレバレなんですよ、ふたりとも。

「さむいな」
「ええ、ほんと」

寒い寒いと言い訳しながらすでに暖かくなったはずの右手と左手をふたりはこたつの中で握りしめた。



ニーナ(2015/1/4)


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