大好きな二人が結婚した。その時わたしはとっても嬉しくて、ほんの少しだけ寂しかった。結婚の準備を進める銀ちゃんは強引で、結婚を報告した一週間後には籍を入れた。その早急さにわたしは驚いた。何をそんなに急いでいるんだろう。だって怠慢を絵に書いたような男なのに。式も旅行もしなかったけれど、薄給のくせにそこそこ立派な指輪も用意していた。住まいはまちまちで、志村邸に帰ることもあれば今まで通り万事屋で寝ることも多い。それはエイリアンハンターを兼任している私も同じだ。今まで何となく二人が想い合っていることは知っていたけれど、きっと進展は遅いだろうと思っていた。ぐうたらでビビリな銀ちゃんだ。大切なものには手を触れることも躊躇う。だけど、結婚だけは一度決まるととても早いスピードで進んでいった。銀ちゃんは結婚の準備に毎日忙しそうで、アネゴは、

何だか少し辛そうだった。

「神楽ちゃんに聞いて欲しい事があるの」

志村邸に泊まった夜、二人きりのアネゴの部屋。暗闇の中で彼女の声は掠れていた。声をかけたきり、黙り込んだアネゴのほうに顔をかたむける。どうしたの?先を促したけど、暗くてその顔は見えなかった。

「…赤ちゃんがね、いるの」
「ホント?!」
「うん…」

驚いたと同時に、納得した。ああ、だからあんなに急いで結婚したんだ。

「うわぁっすごいアル!でかしたネ!」
「聞いて、神楽ちゃん」

そのめでたい内容とは裏腹に、彼女の声は痛さを孕んでいた。このところ元気がないのはマリッジブルーだろうかと楽観していた考えに翳りが生まれる。

「銀さんの子じゃないの」
「…え、」

一瞬、殴られたような感覚がした。冷たいものが喉を下って腹部に落ちる。いま、なんて言ったの?

「あの人…全部受け止めるって」

懸命に彼女の表情を探した。アネゴはなんの話をしてるのだろう。わからない。繋がらない。図ったように月明かりがアネゴの頬を照らす。それが涙に濡れているのを見て、私は無意識に自分の布団を出ていた。アネゴが泣くなんてただ事じゃない。何か大変な事が起きているんだ。

「かぐら、ちゃん…」

抱きしめたアネゴは小さくて、この人はこんなに覚束ない存在だっただろうかと動揺する。

「神楽ちゃん、わたし、わたし…本当は銀さんと結婚できるような人間じゃないの」
「アネゴ」
「あの人、やさしいから、…きっとほっとけなかったのよ。こんなの可哀想よ。わたし、どうすれば」
「大丈夫ヨ。何も、心配することなんかないネ。大丈夫アル、絶対」
「どうすればいいの」
「銀ちゃんはアネゴにベタ惚れなのヨ?アネゴがいないとダメダメアル。見捨てないでよ。だいじょうぶヨ。二人は、絶対だいじょうぶだから…」

詳しい事情もわからずに、連呼した”大丈夫”はみるみるうちに闇夜に溶けて消えていく。だから何度も繰り返した。大丈夫ヨ、大丈夫。どうか大丈夫になって。この大好きな人の苦しみを、かみさま、大丈夫にしてください。

善は銀時の子供ではない。この事実を知っているのは、神楽と新八、そしてお登勢のみだ。しかし特に隠しているわけではないし、彼自身にもすでに話している。いつかは周りに知られる日が来るかもしれない。

そんな日がきたら、すこしでも力になりたい。

家族でいたい。

わたしはいつも、ずっとそう願っている。



ーー


「ぜーんっ」
「あっ、かぐちゃん!」
「ただいまヨ〜」
「おかえり!お仕事終わったの?」
「うん、終わった。悪い奴みーんなやっつけちゃったアル」
「すごーい!正義の味方だ!ねえ、お話きかしてっ」
「よーし!んじゃ中入ろ」

小さな善と手をつなぐと、やはりあの頃の二人の選択は間違っていなかったと思う。この子のいない世界は、もう銀ちゃんもアネゴも考えつかないだろう。アネゴはとても強い女性だ。ずっと昔から憧れていた。涙を見せずに笑って前を見据えて真っ直ぐに歩く人だ。その彼女が泣いた日に、わたしは大丈夫だと呪文を唱えることしかできなかった。その想いを叶えてくれたのが善だ。

わたしのデタラメで悲痛な願いを、この子が叶えてくれた。

「ねえ善。今日の晩御飯なんだろネ」

ブンブンと手を揺らしながら門の中に入る。彼が物心つくころに銀ちゃんは真実を伝えた。新八はそのことをひどく糾弾していた。正解なんてわからない。でも、銀ちゃんとアネゴはこの子のことを一番に考えてきた。幼い善はきっとなにも理解できなかっただろう。なにも問題なんかないんだよ。なにも心配することなんかない。かつて私が唱えた呪文のように、銀ちゃんは善に何度も言ったという。



back
[TOP]













×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -