沖田総悟


快晴という言葉がぴったりの空にちぎったみたいな雲が悠々と泳いでいる。溜息にも感嘆にもとれる声が漏れた。夏の日差しに脳みそが溶かされそうだ。暑い。あつい。ヒマワリの眩しすぎる黄色が目に痛い。胸中とは正反対の爽やかな景色。そうか。と言った近藤さんの顔が思い出せない。そうか、少し休め、総悟。やさしい声だったな。あの時おれは震えていたかもしれない。近藤さん、おれ、人間を、殺っちまった。茫然とするおれの肩を彼はそっと叩いた。初めてのことだった。相手は罪人だった。

「しょうがないことだ。おれも人を斬ったよ。何人も、な」
「…」
「なあ総悟、武士っていうのはそういうもんだ。罪を背負い、覚悟をしなければ何も護れない」
「…近藤さん、おれ、」

言いかけてやめた。何でもありやせん。何とかそれだけ言って道場を出た。近藤さん、おれ、怖いんでさァ。ものすごく怖い。恐怖で身体が震えるくらいだ。近藤さんも、土方さんも、みんなこんな恐怖を抱いているのだろうか。あの日おれが男を殺ったのはこのヒマワリ畑だった。太陽を奪われた夜のヒマワリはどこか俯いていて、おれの過ちを見て見ぬフリしているみたいだった。不気味に泣いてるみたいだった。

「…は、震えてらァ」

まぶたを覆っていた掌が小さく震えていた。つよく目をつむる。夜が蘇る。あの黒の深い夜だ。肉の斬れる感触。男の叫び声。血の温かさ。目を逸らすヒマワリ。とても鮮明に残っている。怖いんだ。人を殺した事なんかじゃない。その感覚に歓びを感じてる事に、だ。こんなにも美しく、おれを魅了するものなんて他にない。しかしそれは恐らく人間的ではない。それを知られるのが怖い。自分を止める自信がない。あの快感を、もう既に求めている。

(ああ、はやく)

この震えは、禁断症状だ。
自分はきっと武士だなんて立派なものではなく、辻斬りになってしまうんじゃないだろうか。

「あっつ…」

ギラギラと光る太陽にくぎ付けのヒマワリは、あの夜のことを忘れてくれただろうか。あの時、気味悪く笑ったおれの事を忘れてくれただろうか。
きっとおれは何かが欠落してる。それってみんなそうなのだろうか。土方や、あの近藤でさえも?護るなんて、そんな立派な感情じゃなくて。ただ自分の欲望を抑えきれないのだ。
まぶしいほどの黄色い花の中に寝ころぶ。ああ、誰か殺したい。命を壊したい。


黄色い目撃者


ニーナ(2013/6/9)


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