8.epilogue
誰も知らない教師と生徒が別れた日から幾つもの時間が過ぎた、ある年の春。
「あ、」
壁に投げた野球ボールが勢いよく跳ね返って道に転がって行った。
見失ってはいけないと、少年は小走りにそれを追う。勢いを失いながら転がるボールには、どこかから運ばれた桜の花びらが何枚か引っ付いていた。
とん、とボールがぶつかった白い靴。
今日に限ってなぜかその道はしずかで、いつもいる近所の犬の姿さえなかった。白い靴を見上げた先にいたのは自分より幾つか年上と思われる少女。目が合ったその瞬間、言い知れぬ既視感と満たされた気持ちでいっぱいになった。名前を呼ぼうと思って、まだ知らないことに気がつく。互いに微笑んで手を伸ばした。
(よかった)
ふたりは同時に思った。
(やっと、会えた)
その真意を知ることもなく。
ちょうどその時しずかな風が通りすぎていた。
ニーナ(2014/11/13)
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