銀時と月詠(銀妙)


「あー、つっかれた。体ボロボロなんすけど」

横を歩く銀時が自分の肩を揉みながら言った。もうすっかり夜は深くなっている。

「ぬし、何故わかったんじゃ」
「ああ?」
「今日のこと」
「んなモン知るかよ。俺ァ普通に飲みに来ただけだっつーの。なのに面倒な事ばっか巻き込まれるって何なの?イヤガラセ?」

ウソをつけ。と心中で吐いた。普通に飲みに来たことなどないではないか。ふう、とため息をついて男の横顔を盗み見る。大方ウワサでも聞きつけて、加勢に来ているのだろう。そういう優しさをこの男は持っている。

「来なんし。今日は泊まってゆけ」
「ああー…いいわ。おれ自分の枕じゃねえと寝れねえし」
「何を子供みたいな事を。これだけ疲れておればどこでも寝れるだろう」
「バカ、疲れてるからこそ余計にいつもの枕でぐっすり寝たいんだっつうの」
「何じゃ?子供たちが気になるのか?神楽なら新八の家に泊まっておるのだろう」
「あー…まあな」
「…何か他に気になるのか」

銀時は居心地悪そうにあーだのうーだの唸って乱暴に頭を掻いた。

「面倒な奴がいるんだよ」
「面倒?」
「何も言ってねえのに、また何か変な事に首突っ込むんでしょうってエスパー紛いなこと言ってさあ。ほんとあいつ怖えんだって。いやまじで。シャレになんねえから」
「…」
「普段は理不尽なほど自己中なくせに肝心なとこで頼ってこねえし。頑固だし、可愛くないし。あと妙に勘するどいし。つーか加減っつーもん知らねえんだよ。卵焼きだってどうやったらあんな事になんだよ。意味わかんねえよ」

最後には的外れなことまで愚痴っている。ブラコンが過ぎるだとか、ストーカーどうにかしろだとか。一気に喋り終えると沈黙を迎え、銀時は溜息を吐いて空を見上げた。

「…傘をさ、借りたんだ。ずっと前。しょーもない喧嘩しに行く時に。まあそれは返したんだけど、それから…なんつうか、こういう時、あいつのとこに戻んねえといけねえ気がしてなあ」

月詠の頭に一人の少女の姿が浮かんだ。しゃんと背筋を伸ばし、心配事など何もないような笑顔をする、あの娘。

「…あいつ、さぁ…」
「…」
「あいつ、ずっと待ってんだよね。怒って引き止めるわけでもなく、泣いてすがるわけでもなく、呆れて見放すわけでもなく。…それって結構堪えるんだよ」

どこか拗ねたようにに口をへの字にして頭を掻きむしる。そしてそれは拗ねているのではなく、どんな顔をしていいのかわからないのだろう。それを察してしまう自分が憎かった。

「そうか」
「うん」
「それは、早く帰ってやらないとな」
「ああ。そうだな」

夜でよかった。暗闇に表情が紛れていて良かった。そう思った。わたしは知らない。この男のそんな声、知らない。

こんな痛みは、知らない。


ニーナ(2020/2/25)


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