銀時と妙

(夫婦なふたり。超小話。死ぬ間際の送る側と送られる側の2パターン。どちらも銀さんの目線です)





夫婦っつーのは不思議なもんだな。全く別の場所で生まれて、違う人生を歩いて、たまたま途中で出会ったその人間と家族になる。そんな大賭博って他にないだろう。彼女と自分は常に付かず離れずで生きてきた。家族になるという意味も、その方法もわからないまま二人で歩いた。それでも気づいた時には妙はおれの家族だった。血は繋がってないし、生まれた場所も、時代も、ちがうけど。きちんと、正真正銘の家族だった。

(お茶にしましょうか)

(ねえ)

(ぎんさん)

なあ、お妙。お前を置いていくおれを許してくれ。薄っすらと開いた目にうつるのはたったひとりの女だ。おれの家族だ。どうしようかな、うまく声がでない。だけど君にはわかるだろう。聞こえるだろう。なあ、お妙。お妙。なあ、おれ、お前に言っていないことが、あった。
細くなった腕をどうにか上げる。年とったよなァ。皺だらけの手を伸ばして彼女の頬をさわる。左目のすぐ下に指を置く。情けない、ふるえている。だけど、あったかいよ。
なあ、ひとつ、どうしても言っとかなきゃいけないことあったわ。

「世界でいちばん好きだよバカヤロー」







「おれ達なんで結婚したんだっけなァ」

かけた声はゆるく曲がって床に落ちる。返事はない。
新八や神楽と共にいつも側にいて、家族みたいに干渉したり、心配したり、貶したりして、気づいたらいつの間にか本物の家族になっていた。笑えるよな。はじめはさ、コイツならおれの事よく知ってるし、一緒になったら楽だろうってそれくらいの感覚だった。どうせ新八とか神楽が帰ってきたときに迎えるのはおれとお妙だ。じゃあ、もう、家族になってたほうが楽だろうって。
「…つーかよォ、こんなん、聞いてねえよ」
十近く年下の女房だ。しかもそんじょそこらの女とは訳が違う。気が強くて腕っぷしも強くて図太くておまけに身体だって丈夫。ちょっとやそっとじゃ死んだりしない。おれはそういう、お節介で煩くて馬鹿でかわいい女に看取られるはずだった。看取るのではなく看取られるはずだったんだ。
ヨボヨボのじーさんになったおれを、シワシワのばーさんになったお前が手をとって甲斐甲斐しく見送ってくれるはずだったんだよ
「聞いてねえよコノヤロー」
ヨボヨボの手で、シワシワの手をとる。おかしいよな。聞いてない。こんなの、逆だ。

「バーカ」

「ゴリラ女」

「ぺちゃパイ」

「ダークマター」

「なあ」

妙はいつもおれの帰りを待っていた。どんなに長く家を空けても、ちゃんと元の場所に戻れるように。お妙の隣に帰れるように。だから、今回もそうだろう?おれがあっち行くまで、きっとお前が待ってる。おれを導いてくれる。だからさ、あとちょっとだけ待っててくれよ。すぐに、行くからさ。なあ、聞こえるか。妙。

「愛してる」



(2013.7.6 blogより)





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