お妙の様子が変だ。
まあ、あの女はもともと変だがここ最近はより一層変だ。やたらと貰い物を届けにきたり、かと思えば神楽が晩飯に誘っても何かと理由を付けて断ったり。今日もほら、紫の風呂敷に包んで饅頭を持ってきた。何を企んでんだと銀時は訝しげに正面の女を見やる。

「これ、貰いものです。よかったら三人でどうぞ」
「…」
「なんですか、黙りこくって。いらないの?」
「…いや、いる」
「そうでしょう、そうでしょう。ここのお饅頭美味しいのよ。皮が薄くてあんこがつぶあんでね、甘すぎないんです。今朝新ちゃんに持たせようと思ったけど忘れてて…」
「なあ」
「はい」
「お前なんで最近こんなに持ってくんの?」
「え?」
「一昨日はバームクーヘンだし先週は煎餅の詰め合わせでその前は柿だろ。他にも羊羹やら団子やら、いくら神楽が大食いだからってなあ」
「だってよく頂くんですもの。万事屋のみんなに食べてほしくて」
「ふうん。じゃあさ、茶ァでも入れるから一緒に食おうぜ」

ぴくり、そこで妙の滑らかな口調が止まった。銀時は眉間にシワを作り、彼女を見る。

「い、いいえ、わたしは結構です。」
「なんで。何か用でもあんの」
「いえ、そういう訳じゃ。でもお腹空いてない、し…」

と、いいながら視線は饅頭に釘付けである。そこでピンときた。そうか、何故気づかなかったのだろう。はっはーん。そういうことね。

「お妙」
「え?」
「お前もしかして」

ニヤニヤしながら妙の顔を覗き見る。この女の弱みを握れるとはなかなか面白い。

「太ったのか」

言い終わる前に女の右ストレートが顔面に食い込んだ。

「ってぇ!何すんだテメェ!」
「ああん?テメェこそ何言ってんだ」
「すみませんでした」

ちっ。わかりやすい奴め。と、ごちるともう一発鉄拳が下った。涙目になりながら頬をさすって、非難するように女を見たが今度は口答えしない。

「別に太ったわけじゃありませんから。去年着たナースの衣装がちょっとだけキツくなってて、だから何かおかしいなって」
「それを太ったっていうんだろ」
「うるさいわね。だから体型を元に戻そうと必死なんでしょ」
「つか、何?ナースの衣装って」
「すまいるのハロウィンパーティーですよ」
「ふうーん。大変ですねえキャバ嬢も」
「馬鹿にしてます?」
「してねえよ。さぞや喜ぶんだろうな、金持ちのおっさんは。そんで金をふんだくろうって魂胆か」
「やっぱり馬鹿にしてる」
「感心してんだよ。へーえぇ。ハロウィンパーティーねえ」

そんな事をしていたのか、と面白くない気持ちで頬杖をついた。そんな銀時に気づく様子もなく妙はつづける。

「だいたい…だいたい美味しいものが多すぎるんですよ。お米が美味しいからおかずも沢山食べちゃうし、この時期カボチャとか栗とかのデザートが出てくるでしょ?そんなの買わないわけにはいかないじゃない。しかもやたらと皆さんお裾分けくれるし。美味しいし。止まんないし。そしたら太るのも当たり前でしょう」
「別に太ってねーじゃん。つうか元々細っこいんだからちょっとぐらいいいだろ」
「努力してキープしてるの。ちょっとぐらいっていう甘さが肥満へ繋がるんです」
「あっそ」

女は大変ですねえ、とため息交じりに言った。ふと視線を机の上にやるとくたびれた財布がそこにある。その隣には甘味処のチラシ。秋の新商品のパンプキンパフェがでかでかと写し出されていた。

「なァ、どんくらいダイエットしてんの?」
「ええと、二週間くらい」
「じゃあさ、今日くらいいいじゃん」
「は?」
「今日はダイエットやすみ。パフェ食い行こうぜ」
「はぁ?嫌ですよ。パフェなんて」
「ちょっくら散歩したらカロリー消費されるって」
「そんなのでプラマイゼロにはなりません」
「パンプキンパフェだぞ?」
「えっ」

にやりと笑ながらチラシを持ち上げた。

「期間限定だぞ?」
「…」
「もうさナースじゃなくて魔女っ子でいいじゃん。体型が見えないやつ」
「…」
「つうか秋に美味いもん食わないなんざ勿体ねえだろ」
「…」
「実りの秋だぞ」
「…」
「お妙」

ひらひらとチラシを妙の顔の前で揺らす。

「行く?」

彼女は恨めしそうにチラシを眺めた後、あっ、と何かに気づいてほんのり赤く頬を染めた。はて、と思っていると妙がチラシをかっさらって、そのあと言った。何故かふくれっ面で。

「…行く」

そのとき彼女の手中にあるチラシに書かれている割引の文字を銀時は見ていなかった。それをかっさらった訳も、ダイエット中の意地悪な誘いに乗った訳も。なんにも知らなかった。







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食欲の秋




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