(お妙さんが他の人と結婚しちゃいそうだよ銀さん)
2017/06/27 16:13



「あなたが、行くなと、ひとこと言ってくれるなら」
妙の頬には涙が伝っていたが、暗がりではなにも見えなかった。そしてその事に心底有難く思っていた。こんな言葉は、顔を見ては到底言えそうもない。
「わたしはどこにも行かない。ずっとここにいます」
沈黙が泥のように二人の間に流れる。まるで一人で泣いてるみたい。こたえはない。いくら待っても息づかいすらわからない。触れた指先だけが彼の存在を確かに示していた。沈黙が答えなのだ。彼は言ってはくれない。一番欲しい言葉をわたしにくれない。この手を握って、選んではくれない。妙は新たな涙を落とすと、力なく手をはなした。はなす瞬間、頭のなかで男の顔がふっと浮かんだ。それを見えない筆で、墨で、黒く黒く塗りつぶす。
「困らせて、ごめんなさい。…さようなら」
真っ暗闇を駆けていく音だけが響いて、銀時は瞼を閉じた。閉じたところで闇は変わらなかった。握りたいと思った女の手はもう届く位置にない。行くな、なんて。そんな言葉を、こんな男が、
「…言えるかよ」

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