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不連続世界3




「やぁ、臨也。目覚めはどうだい?」

「しんら・・・?」

うっすらと目を開けると、何度か見たことのある天井と、めがねの友人が見えた。

「丸1日眠ってたよ。外傷はほとんどないんだけどね。極々軽い脳震盪ってところだよ。」

「眠ってた・・・?シズちゃんは・・・?」

まだぼんやりと霞む視界をぐるりと見回すが、さっきのこどもが見当たらない。
当たり前と言えば当たり前だ。あれは夢なのだから。

「静雄は帰ったよ。君をここまで運んできてからすぐにね」

「シズちゃんが?」

「そうだよ。やりすぎたって言ってたけど、結局助けちゃうとこが静雄らしいよね」

助けた?確かに俺は道に行き倒れてたところをシズちゃんに助けられて・・・って、これは夢の話だ。
そうだ、あのとき、壮絶な蹴り技で足場を崩されて。

「・・・だめだ、新羅」

「え?」

「お、」

「お?」

「落ちる」

スーッと眠りの穴に落ちていく感覚が生々しく実感できた。

「睡眠不足だったんじゃない?今はよく眠るといいよ。おやすみ、臨也」

友人の声が段々と遠くなって、霞んでいた視界が完全に暗闇に包まれた。


−−−−


気がついたら公園にいた。
どうやらまた夢の世界に引き戻されたようだった。
ベンチに腰を下ろす。ベンチは冷えていて、ぶるりと身震いをした。
感覚がリアルだ。夢のくせに。
そんなことを思ってると、ランドセルを背負ったこどもが公園の入り口で足を止めるのが見えた。

「あ、」

「い、い、いざや!」

たたたっと駆け寄ってくるのは、紛れもない、平和島静雄。
の子供、時代?
リアルな触感のくせに現実離れしてる設定だ。

「やあ、シズちゃん」

「こないだ、おまえ急に、消えたんだぞ!」

「え?」

こないだ、というのは道に倒れていた俺を助けてくれたときのことだろうか。
そうか、現実世界に戻っている間にこっちでの時間は流れているんだ。

「ああ、ごめんね、心配しちゃった?」

「おまえ、幽霊か?おい幽、これ見えるか?」

シズちゃん(こども)の隣で大人しくしていた弟の幽くんに問いかけると、無表情でこくりと頷いた。

「幽霊、ではないんだけど、俺は、うーん、未来から来たってことになるのかな」

「未来?」

「そう、何年後だろう、シズちゃん今9歳くらいかな?だとしたら、15年後の世界から俺は来たって、ことになるね」

「じゃ、じゃあ、だから!俺のこと知ってたのか?」

シズちゃんは興奮したようにまくしたてた。
こどもはこういうの好きだからなあ。だけど、よくもまぁ、こんな話鵜呑みにできるものだ。幽くんは無表情だけどオーラから警戒を感じる。
こんな小さなときから兄を守ってきたというわけだ。

「そうだね、俺とシズちゃんは高校で出会って、そっからいろいろとあって15年後の今でも腐れ縁とも言える関係は続いてる。」

「え、じゃあ、いざやと俺は、ともだちなのか?」

「え?」

シズちゃんが背負ってたランドセルを地面に放り投げてベンチに飛び乗った。
質問の意図を反芻しながら、シズちゃんの顔を見る。
目がきらきらと輝いてる、ように見える。

「俺、高校生になったら、まともなともだちが、できるんだな」

シズちゃんは、うれしそうに、だけどその嬉しさを必死に隠すように呟いた。
こんな小さなこどもを傷つける趣味はない。
だから、控えめに頷いた。

「そうだね、友達だよ。」

そっか、と言ってシズちゃんは笑った。
どことなく遠慮がちな、口角を少しだけ引き上げたような笑顔。
そんなところは大人びていて、悲しげだった。

「兄さん、時間」

「あ、そうだな。」

シズちゃんはベンチを飛び降りてランドセルを拾った。
土まみれになったランドセルを気にもせずに背負うと

「いざや、またここに来る?」

なんて、しおらしいことを言った。

「ああ、また来るよ。」

「そっか、じゃあ、またな!」

シズちゃんはそう言って手を振った。
小走りで公園の出口まで走っていって、出口でもう一度俺を振り返る。
存在を確かめるみたいに。

なんだろう、これ。
夢にしてはリアルだし、現実だなんてあり得ない。
だけど、俺は今、猛烈に楽しいだなんてことを思っている。
びゅう、と風が吹いた。
髪が揺れて、コートの裾が翻る。
一瞬、コートに目線を移した、それだけの間に、視界がブラックアウトした。

(ああ、覚める)












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