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不連続世界2




いったいどれくらいこうしていたんだろう。
暗闇は一向に光の兆しを見出せないほどに暗かった。
段々と体の感覚を取り戻す。
足先、指先。
鼻先に土ぼこりの匂いがした。
力を込めれば、瞼の感覚。
なにせ2階分の落下だ。無傷では済まないだろう。
意を決して瞼を持ち上げることに意識を集中させた。
思いのほか、軽々しく持ち上がる瞼に裏切られたような気分になりながら、広がる光にそおっと目を開く。

「あ、目開いた。」

どうやら地面にうつ伏せていたようだった。
静かに開いた視界いっぱいに映ったのは、小さなこどもの顔だった。

「だいじょぶか?あんたここに倒れてたんだ」

ぱちぱちと瞬きを繰り返してみるが、予想していた痛みなどは訪れない。
なんだか裏切られてばかりだ。
腕に力を入れてみるがやはり痛みも重さも感じない。
上手に受身を取ったんだろうか。それともシズちゃんが助けてくれたとでもいうのか。
ぐっと腕に力を入れて、上半身を起こした。
体の上下を入れ替えて、地面に座る格好を取る。
頭を押さえて、ふるふると振ってみても、特に異変は感じられなかった。

「お、おい」

そういえば、こどもがいたんだった、と思い立って、振り向けばそこにはどうにも見覚えのある顔があった。

「き、きみ、は」

「あ、あ、あんた、ここに倒れてて、ぜんぜん起きねえから、おれ」

「あ、ああ、助けてくれたんだね。」

「え、いや別に!何も、なんにも、してねえし」

俯いてほのかに頬を赤らめる。
面影は、いやになるくらいに見知ったものだった。

「しシズちゃん、」

俺がそう言うと、バッと音がしそうなくらいに激しく顔を上げたこども。
その顔立ちは幼いながらもハッキリと、さっきまで交戦していた天敵の面影を残していた。

「あり得ない、ありえないんだけど、・・・とりあえず、助けてくれてありがとう」

混乱しながらも礼を言うと、やっぱりこどもは恥ずかしそうに俯いた。

「別に・・・っていうか、あんた、おれのこと知ってるのか?」

「し、知ってるも、何も、君は、もしかして、へ、平和島、静雄?」

「やっぱ知ってんじゃん!!」

こどもはTシャツの裾を破れんばかりに握り締めて言った。

「あんたみたいなおとなまで知ってんのかよ!」

そう叫んでからギリと唇を噛んだそのこどもは、幼いくせに何も期待していないような悲しい顔をしていた。

「これが、これがこーなって、あーなるのか・・・」

俺はぽつりと呟くと、平和島静雄だと名乗るそのこどもの頭に手のひらをのせた。
軽くぽんぽんと頭を撫でると、こどもはフリーズしてしまった。

「シズちゃん、だいじょうぶ。俺は君のことも君の力のことも、これっぽっちも怖くないし、何かに利用しようなんて考えは当の昔に捨てたし、だから、だいじょうぶ。シズちゃんも怖がらなくていいよ。」

もう一度、まだ痛んでない彼の髪を梳くように撫でて言った。
きっとこれは質の悪い夢に決まってる。
だから何をしたっていいのだ。
フリーズしたままのこどもから目線を外して、頬を抓ってみる。
痛い。
痛いから夢なんだっけ現実なんだっけ?
なんでもいいから早く覚めて欲しかった。

「あ、あ、あんた、」

こどもが震える声を絞り出した。

「ああ、俺は臨也。よろしくね。」

適当なこと言ってもこどもは口をぱくぱくとするだけで、まだ動作が正常じゃないようだった。

「いざ、や」

小さな声でこどもは俺の名前を反芻した。
そして笑った。純粋という言葉を体言したかのような顔で。

「変な名前だな」











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