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たなばた










水色の折り紙を半分に折る指先はとても器用に動いた。その半分をさらに半分に折ってから、ハサミを持つ手を静雄はじっと見つめた。

「やりづらいんだけど」

臨也はそう零しながらも、ハサミを動かす。長辺に1センチ間隔で切り込みを入れ、反対側の辺にも交互になるように切り込みを入れた。

「広げてみる?」

そう言って静雄に差し出すが、彼は首を横に振った。
それに笑ってから、丁寧に折り紙を広げる。切り込みが入っている以外はなんの変哲もない四角い折り紙だ。
やさしい手つきで、それを伸ばすと、

「天の川、ね?」

あみかざり、という七夕のかざりができあがった。



「へえ、臨也って器用だね。君を呼んで正解だったよ。」

新羅が水性マジックをもてあそびながら言った。
湿気でべたついた空気が教室内を満たしている。窓の外はどんよりとした曇り空だった。雨が降れば少しは涼しくなるのだろうが、今はとても蒸し暑い。

「まぁね。あとは輪かざりでも作れば十分じゃない。」

そう言って臨也は折り紙を4枚まとめて折った。折れ線をつけて、そこをなぞるようにハサミで切る。

「これならシズちゃんもできるんじゃない?」

差し出された長細い何枚もの折り紙をどうすればかざりになるのかなんて静雄には見当もつかなかった。
それでも一枚、青い折り紙を手に取って、臨也を見た。

「いい?まず、それを輪っかにしてさ、ここに、」

言われた通りに折り紙で輪っかを作って、でんぷんのりで留めた。そこにもう一枚を通して、のりで留める。
それを繰り返すのだ、と説明を受けて、ああ、よく目にするこれが輪かざりと言うのかと静雄は思った。
おぼつかない手つきで4つの輪を繋げることができた。今まで工作とは無縁だった静雄は自然にほほ笑んでしまうくらいに達成感を感じていた。

「ところでさあ、なんでこんなことしなきゃなんないの、七夕当日に。」

臨也は輪かざりを作るための折り紙を切りながら新羅に問う。新羅は悪びれもせずに笑顔で言い放った。

「なんでって臨也、それは愚問だなあ!僕の愛する人が、七夕飾りをしたいって言ったからに決まってるじゃないか!でも彼女は仕事があるから、こうして君たちに手伝ってもらっているというわけだ。でもこの金色の短冊は彼女用だから、君たちはこっちの質素な方の短冊を使ってね。」

静雄はだいたいの事情を把握していたし輪かざり作りに夢中だったためほとんど聞いていなかったが、事情も聞かされないまま、ちょっと来ての一言で駆り出された臨也はほんのり苛立ちを禁じ得ない。

「まぁだいたい想像はついてたけどさ」

じゃきん、とハサミが音を立てる。

「それじゃあ、これを学校で完成させて、君はこの飾り付けられた笹を担いで家まで帰るわけだね。そりゃあ見物だ。」

「それくらい、なんてことないね。彼女の喜ぶ顔が見れるのならね!」

はぁあと盛大なため息を吐いてから、臨也はハサミを持ったまま頬杖をついた。

「それなら、さっさと仕上げないとね。もうじき降るよ、」

窓の外は、さっきよりさらに暗くなっている。厚ぼったい雲は真っ黒に染まっていた。
そんなふたりの会話を余所に静雄の輪かざりはどんどん長くなっていった。




「まだやってたのか。」

門田が教室を訪れたのは、笹が飾りの重さにしなっているのをどうにかしようと新羅が奮闘しているときだった。
だいたいの飾りは完成して、あとは短冊を吊るすだけだ。

「門田くん遅いよ!」

「…っていうか、つけすぎだろ飾り」

門田が切ってきた笹は小ぶりだった。その葉という葉に飾りが取り付けられて、笹というより柳のようになっている状態を見て門田は脱力した。

「これだけなんで長いんだよ」

ひとつずつに突っ込みなど入れられるはずもない程につけられた飾りの中で一際目立った輪飾りをつついてみる。
他の輪かざりは4つほどの輪で構成されているのに、それだけは地面についてしまいそうな程に長い。

「それはシズちゃんが不器用な手で一生懸命びりびり破っては直し破っては直して作り上げたものなんだからね、バカにしちゃ失礼だよドタチン」

そう言う臨也こそがいちばんバカにしている。口元を押えて笑いをこらえている振りしている。

「しかも途中からは夢中になっちゃって、気づいたらそんな長くしちゃって!」

「うるせえな!だから途中で切ればいいって言っただろうが!」

「だって切ろうとしたときのシズちゃんの顔!あんな捨てられた犬みたいな顔されたらいくら俺でも切れないよお〜」

「てめえ…」

「はいはいそこまでそこまで」

今にも殴りだしそうだった静雄の前に新羅が割入って

「いいんだ、デキが悪い方が手作り感があっていいだろう?ほらほら雨降りそうだし、さっさと短冊を書いちゃおう。」

と言って、全員に短冊を配った。

「まだ飾る気なのか…折れるぞ笹」

まだ笹を気にする門田を新羅と臨也がひっぱって、椅子に座らせた。ふたつの机を向い合せにくっつけた簡易作業台に椅子を持ち寄って男子4人が顔を突き合わせる。

「おい臨也、短冊変えろ」

「やだね、シズちゃんはピンクがお似合いだよ。ほら、マジックもピンクにしたら?」

「このクソやろう…」

「ちょっと、時間ないんだから早く書きなよ」

新羅は銀色の折り紙、門田は緑、臨也は青で、静雄がピンク色の折り紙を短冊として、ペンを取った。
さすがにピンクにピンクじゃかわいそうだし、字が見えないだろうと門田は静雄に黒のマジックを譲った。

「できた!」

新羅がいち早くペンを置いて、重量オーバーの笹に短冊をくくりつけた。次いで門田も続く。
一文字書いてはくしゃくしゃと塗りつぶし散々悩んだ静雄も席を立って、笹に結んだ。
最後になった臨也は新羅に急かされながら、書き終えて一同を見渡してニヤリと笑った。
そしてすべての工程を完了した七夕かざりは、そのずっしりとした重量で新羅の肩にめりこんだ。
玄関で外履きに履き替える。外は今にも降り出しそうな空模様だ。

「静雄の願いごとは、小学生みてえだな」

門田が笑って言うと、静雄は、ほかに思いつかなかったんだよ!と言い訳をしていた。静雄は何度も塗りつぶした言葉を、胸のうちにしまった。

「アイスが食べたいなんて、今日中に叶っちゃうんじゃないの?」

「うるせえ!」

「ドタチンの宝くじが当たりますように、も夢がないよねえ」

「そう言うおまえはなんて書いたんだよ。」

聞かれて臨也は、みんなのお願いを代弁してあげたんだよ、と言って笑った。

「来年もまた同じように七夕を迎えられますように。だとよ。」

門田が臨也の短冊を読み上げて笑った。それに、賛成〜と新羅が声を上げた。

「またやろうよ。今度はもうちょっと大きな笹を頼むよ門田くん」

空はどんよりと曇ったままだった。
織姫と彦星は今年は会えないみたいだねえ、と新羅が歩みを早めて言った。

「難儀な話だよね、晴れなきゃ会えないなんて。その点僕は感謝すべきだ。家に帰れば愛しいひとに会えるんだから。」

後続の3人はげんなりとため息をついたが、新羅がそれに気づくことはなかった。

「セルティ、愛してる、って短冊に書くことじゃないよねえ。」

「まったくだ。」







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