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マイハートハードピンチ











「静雄、いいかい。これから対面する人物は、きみのことを知らない。存在そのもの、きみがいったいどういう人間でどんな特性を持っているのか、そういったこと全部まるっと知らないんだ。だからいいかい?ここできみがどういった行動に出るかによって、きみとこの人物の関係性が決まる。それを踏まえた上でもう一度聞くよ。準備は、いいかい?」

新羅の長い長い前置きを聞きながら、静雄は目の前で頭の上から白いナプキンをかぶせられた人物から目が離せないでいた。
その人物は、黒いブイネックのカットソーを着ていて、真っ黒なパンツに同色の艶のないベルトをしていた。
靴下も黒く、毛玉ひとつない綺麗なものを履いている。
きっと靴も黒なのだろうと、静雄は思った。
肝心の頭は大判のナプキンのせいで見えないが、新羅の前置きには申し訳ないが静雄にはだいたいの見当がついてしまっていた。
そのせいで、握った拳には血管が浮き出て、少し震えてしまっている。
恐怖や喜びからの震えではない。
はっきりとした嫌悪、憎悪、その他もろもろの怒りからである。

「なにが、してえんだ、てめえら。」

静かに、だけど低く、静雄の声は地を這った。

「ちょ、ま、静雄!静雄くん!待って!」

新羅は両手を目の前に伸ばして、ストップを体言した。

「こ、この白い布の下の顔には、きっと静雄も嫌って言う程見覚えがあるだろう!そんなことはわかってるんだけど、事情が違うんだ!最後まで聞いて!」

事情が違う。
何が違うというのか。
その男の顔、声、名前でさえ、聞いただけで粟立つほどの負の感情が溢れ出す静雄にとって、その男を自分の前に立たせて”きみのことを知らない人物”だと言い張る行為は、殺してくださいと懇願しているのと同義だ。
ただ、おかしいことは確かだ、と静雄は思う。
いつもの黒ずくめのこの男ならば、こんな長い間沈黙を続けられるはずはなかった。
すぐに罵詈雑言、嫌味や皮肉、そういったあらゆる人の神経を逆なでする言葉をつむぎ出すその口は、舌の根が乾く間もなく常にまわっているものなのだ。

「い、いいかい?とにかく、これを見てもらえれば、全ての事情はわかってもらえると思う。気を落ち着かせて、何が起きても怒ってはダメだよ?いいかい?いくよ?」

黙り込んだ静雄に、了解の意を汲んだ新羅が、黒ずくめの頭にかかった布を手にとった。

「お、怒ったらダメだからね?!怒ったら結局、すべて元に戻るというか、こうして対面させる意味がなくなるというか、だからぜったいn」

「うるせえ!さっさとやれ!」

「はい!」

バサッと音を立てて、白いナプキンが取り去られる。
その中から現れたのは。

「怒ってねえ。怒ってねえが、結局ノミ蟲じゃねえか!」

横に引かれた布の勢いのまま前髪を乱した、眉目秀麗な臨也が、きょとんとした表情で静雄を見つめていた。







つづく?




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