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不連続世界7




(まずいなあ、)

またまずい、なんてことを考える。
こんなことがあっていいのだろうか。
これが夢だとしても、タイムスリップした過去の中だとしても、俺はあの憎き天敵シズちゃんに対して、これ以上ないほどの好意を寄せていることになる。
9歳のシズちゃんはとってもかわいいと思う。
目に入れても痛くない。
喜ばせたい。笑わせたい。しあわせにしたい。
そんな明るい感じの希望が次々と思い浮かぶ。
これはいったいなんだろう?
父性だろうか。母性だろうか。
それとも。






−−−





目が覚めた。
ふわりと、よく知った煙の匂いが鼻を掠める。

「シズ、ちゃ」

声を出してみると、それはみっともなくかすれていた。
シズちゃんはそんな俺の声には気付かないのか、ベッドサイドに座って俺の腹部辺りに覆い被さるようにしている。
俺が来なかったから、泣いてるのかな。
あ、それは9歳の方だった。

「泣かせたく、ないんだけど、なあ」

ぎしぎしと軋む関節を無視して、腕を上げた。
そおっとシズちゃんの脱色された眩しい髪を撫でてみた。
あ、また間違えた。こんなことしていいのは、9歳の方だった。
だけど、意思に伴わず手のひらはシズちゃんの髪を撫でる。
バッと顔を上げたシズちゃんと目が合う。

「臨也、」

その顔は、まるで泣きだしそうな。
なあんだ、9歳も現在も大して変わらないじゃないシズちゃん。
シズちゃんは顔を上げたせいで、ぺたりとシズちゃんの後頭部に張り付いた俺の手のひらを強引に引っ張る。

「臨也、」

「ど、したのシズ、ちゃん」

「教えてやる、から」

ぐいと引っ張られて、体が揺れる。
教えてやる?なんの話?

「俺が、おまえを殺さない理由、教えてやるから」

ああ、その話。
そんなの、今はどうでもいいんだけどなあ。

「だから、」

でも、意識して聞いたり見たりしてると、シズちゃんと9歳シズちゃん、そっくりだ、しゃべり方までおんなじ。
ま、当たり前なんだけ、ど・・・

「だから、帰ってこい!」

ぱちん、と目の前で何かが弾けたように感じた。
その瞬間、視界が真っ白に染まる。
なんだこれ、なんだこれ。
ふわふわと空を浮いてるような感覚。
だけどゆっくりと落下していってる。

真っ白な空間に映像が浮かび上がる。

『死ね!ノミ虫野郎!』
『池袋には来んなって何度言やぁわかんだてめえは!』

罵詈雑言が大音量で響いた。
どのシズちゃんも、サングラス越しに青筋を立てて怒っている。
パッと映像が切り替わる。

『くだらねえ』
『殺せないんじゃない』
『殺さないんだ』

シズちゃんは俯いていて、どれも表情は窺えない。

『わからないのか?』
『俺は、知ってる。』

あれ?この顔は、知ってる。
映像の中のシズちゃんはゆっくりと顔を上げる。
その表情には、見覚えがあった。
9歳のシズちゃんが、よくする顔だ。
真っ赤に染まった、かわいい、顔、だ。
成分はまるで同じ。
意地っ張りのくせに手放すことが、上手であきらめることに慣れてる小さなシズちゃん。

『なぁ臨也、おまえはなんで俺を殺さないんだ?』

パッと映像が消える。
照明が次々に落とされるように、真っ白だった空間は真っ暗闇に染まった。





(これが、最後かもしれない)

確信に近い。そう思った。
これが最後だ。9歳のシズちゃんに会える、最後の機会だ。













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