不連続世界5 「あ、起きた」 目を開けると視界いっぱいに新羅の顔が広がった。 「おとなしんら」 「なんだいそれ」 光が眩しい。目がちかちかして痛かった。 新羅の横には運び屋が立っていてPDAに何か打ち込む。 『大丈夫か、臨也。もう6日間も眠り続けていたんだ。』 「6日間、も?ほんとかい?そりゃ、こま、った」 仕事のことやいろいろと気になることはあったけど、口を動かすのもしんどい。 口の中や唇が乾いて引きつってるようだった。 「臨也、4日目から点滴を始めてるよ。1週間経っても起きられなかったら鼻から径管食を流し込むから、そのつもりでいて。」 腕に力を込めてみると、それは異常に重たく感じた。 腕をやっとの思いで持ち上げると、点滴の針が刺さっているのが見えた。 「どうして、起きられ、ないんだろ」 純粋な疑問を持った。 確かに、俺は夢の中で9歳のシズちゃんとたのしく過ごしているし、現実に戻るたびに9歳のシズちゃんのことを気にかけてしまっている。 それが、この眠りから覚められない理由なんだろうか。 「原因不明、ってやつだね。残念ながら。バイタルに異常はないし、起きないってこと以外におかしなところはひとつもないんだ。外傷だってすっかり完治してるしね。」 やっぱり原因は、あの夢の世界なのかもしれない。 だって、そんな重篤な己の症状を聞いてなお、おれは9歳のシズちゃんの、あの泣きだしそうな表情の裏に隠された気持ちのことばかりを考えてしまっている。 視界を埋めていた新羅とセルティのヘルメットがぼんやりと霞んだ。 「新羅、径管食でも、なんでもいい、だから、もう少し、9歳、シズちゃんと、遊ばせ、て」 「9歳?静雄?なんのことを、あ、臨也!」 すう、と瞼が落ちた。 現実世界の幕引きとでもいうように。静かに。 遠くで新羅の声が聞こえる。 「9歳ってなんのことだろう、臨也は夢を見てるのかなあ、」 カタタタと運び屋の指先が鳴る。 「そうだね、一応、静雄にも知らせた方がいいかもしれない」 耳に届くか届かないかで聞こえたそのフレーズにギョっとした。 やめてくれ新羅。頼むから現在のシズちゃんを呼ぶような真似はしないでくれ。 そう叫びたいのに、意識が黒い渦巻きに逆らえず落ちる。 (まずいなあ、) 何がまずいのか、なぜ現在のシズちゃんを呼ばれたくないのか。 単に寝首をかかれるのでは?という不安からではない。 むしろシズちゃんはそういう卑怯な真似は好まない。 (何がまずいんだろう、) ついに渦巻きは自分を飲み込んだ。 眠りが完成する。 back - - - - - - - - - - |