少しずつ山本と仲良くなって

馬鹿みたいに笑えるようになって

そのまま、友達で終わってしまう事が怖かった









夕日が差し込む教室

世界が茜色に染まる




誰もいない教室に、私がペンを走らせる音だけが響く

ぱたん

日直日誌を閉じる

小さく息をついて帰る用意をした




ガラッ

勢いよく開いた扉に目をやる

野球のユニフォームを着た山本が立っていた



「お」



「おー」



軽く手を上げる

どうやら忘れ物を取りに来たようで、机の中を漁る山本



「なー如月。あれ知らねーか」



机の中身を取り出していく

やっぱり好きだなあ

何でもない様子を見ても、そう思える



「ほら、休み時間にオレが持ってたやつ」



この何でもない空気も好きだ



「山本」



教室の空気が変わる

私は自分でさっきまでの空気を破った

急に周りの音が遠のいて、次第に消える

山本も空気が変わったことに気付いたのだろうか

こちらを見た



「好き」



言い慣れた言葉

ずっと言い続けた

あなたがすきだから

山本は目を丸くして、それから笑った



「久しぶりに聞いたなー。どうかしたのか?」



まだ伝わらない

それがひどくもどかしい



「好き。好きなの」



ねえ、お願い



「好きなの。山本が好き」



伝わってよ



「すきなの」



他にどういえばいいのか分からない

ぐっと唇を噛み締め、うつむいた



「ほんとにどーした?」



少し慌てたように近寄ってくる山本

私の顔を覗き込んでくる

嫌いになれたらどんなに楽か

今までこんなに好きになった人なんていないの



「なんかあったのか?」



頭に大きな手が乗る

もうあなたは「好き」と返してもくれないね



「よく分かんねーけど、元気出せって。な?」



困ったように笑いかけられる



「…卑怯だ」



その顔されたら、私何にも言えない

私はキッと山本をにらみつけた



「何で分かってくれないの?!伝わらないのっ?!」



目を白黒させる山本の襟元をつかんで引き寄せた

一瞬

重なるだけのキス




鞄をひっつかみ、私は教室から逃げるように走った

ほんとに好きだった

今も好き

ふざけて言ってても、いつも真剣だった




私の気持ちに気付いてくれたら

知っててくれたら

それだけで良かった

それだけで喜べた




人気のない廊下で立ち止まる

突然の全力疾走に驚いた心臓は、痛いくらいに胸を打つ

この胸の痛みは走ったからだ

そうに決まってる




卑怯なのは私だ

山本は何も悪くない

それなのに無理やりキスした




他の子みたいに伝わらなかったと諦められたら良かったのに

しゃがみ込んで肩で息をする

顔に髪が掛かった



「…髪伸びたなあ」






20100227

- 8 -


[*前] | [次#]
ページ:


戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -