誘拐犯




結は走りながら時計を見ていた

(完璧遅刻やん。店長食器割ってへんかな)

もう開店時刻だ




『CLOSED』

入り口の扉を見て首を傾げる

裏口から入って鞄を置くと、店内に入った

ジャケットを脱いで腕に掛ける



『店長。…店長?』



店への鍵は開いていたし、彼の荷物もあった

それなのに彼の姿がない

嫌な予感が頭をよぎる

それを打ち消すように、再び声を掛けた




カウンターの中に足を踏み入れる

割れた食器

散乱する食材

カウンターの内側にナイフで固定された紙

顔が青ざめた



『人質は預かった』






「やられたっ」



横の壁に拳を叩き付ける

店長は恐らくロンディネに連れて行かれた

前に言ってたストーカーだろう




(何で気付かんかったんや)

ジャケットを着て、荷物を取りに裏口へ向かう

カランカラン

入り口の扉に付いた鈴が、来訪者を知らせる

綱吉が顔を出した

店の状態に目を見張り、結の様子を見て表情を引き締める



「…何があったの?」



「店長が…っ何もない。こっちの問題や」



結はすぐに背を向ける

彼に言う必要を感じなかったし、手伝ってほしくもなかった

鞄を持って外に出た結の腕を、追ってきた綱吉がつかむ



「どこにいるか分かってるの?」



「今から探すわ」



苛立ったように語調を荒くする結を引き止めたまま、綱吉は携帯を取り出した



「…うん、そう。場所を探してほしいんだ。出来るだけ早く頼む」



綱吉は電話の先と二言三言交わした



「…っいらんことすんな。関係ないやろ」



呆気に取られていたが、我に返ると電話を切った綱吉に噛み付く

綱吉が結に視線を動かした

瞬間






一陣の風が

吹き抜けた






「…ここはオレの管轄内。君だけの問題じゃない」



顔はいつものように穏やかに笑っているのに、瞳が強く輝いていた

思わず惹きつけられる

人を率いる人の目だった

風になびく髪が後ろに流れる






力の強さじゃない頭のキレでもない

ただ圧倒的な存在感に言葉を失った






「店長さんも心配だしね」



ふわっ、と普段の目に戻る

それなのに鳥肌がおさまらない

それでも彼について行こうと思うには、まだ抵抗があった

だって彼はマフィアだから






それでも

ちょっとだけでいい

その輝きに憧れさせて?

少しだけ心が揺れるのを許して?






「店長、助けたいんや…」



俯く結の手を綱吉が取る

弱ってるなんて思われたくなくて、何でもないような顔して視線を上げた



「一緒に助けよう」



一緒に

その言葉は結にとって違和感を拭えない言葉

綱吉の携帯が鳴る

店長の居場所が分かった

郊外の近くのビル

結は荷物を持って歩き出す



「あ、ちょっ」



「如月結。あたしの名前。とりあえず下準備して来るわ。あとは任せる」



前を向いたままひらひらと手を振った

信用したわけじゃないから

自分に言い聞かせ、足を運んだ







20100307

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