久休日




久しぶりの休日

休日の街は雑然としていて、自然と肩がぶつかってしまう




今日は運が悪い

朝から冷蔵庫の中は空だし

お気に入りの服は虫に喰われてるし



『ってェな!姉ちゃん痛ェじゃねーか!!』



ぶつかった相手はチンピラだし

本当に今日は運が悪い

腕をつかまれ歩みを止められた事に苛立つ



『ぶつかってきといて謝罪もねーのかよ。あぁ、オレの言ってること分かんねーか』



明らかにアジア顔の結に、馬鹿にしたように笑う



『……うるさい。この人混みでちょっとぶつかられたくらいで、ギャーギャー喚いてんじゃねーよ』



低血圧に加え、色々不運が続いた事で、結の機嫌は今もの凄く悪い

チンピラは結がすらすらとイタリア語を話した事に驚いた

遅れて内容を理解し、頭に血を昇らせる



『てめー、調子乗ってんじゃねーよ!!』



殴りかかってくるチンピラを半眼で見つめる

敢えて繰り返そう

結はもの凄く機嫌が悪い

一般人相手だとか考えず、蹴り飛ばそうと足を振りかぶる



『ぐあっ!!』



チンピラが吹っ飛ぶ

結ではない

チンピラとは逆の方を見て、結はポケットから手を出した




そこには男が立っていた

整った顔

服の上からでも分かる引き締まった体

二十代の後半だろうか

何より気配がしなかった




チンピラが逃げた事で、遠巻きに見ていた野次馬が散る

油断していた訳じゃない

油断なんてする訳がない

それなのに男の気配に気付けなかった



『嬢ちゃん、大丈夫かい?』



『…ありがとうございます』



腹に響く声が印象的だ

男はずいと顔を近付けた

その顔で困ったように眉尻を下げる



『ところで、物は相談なんだがよう』



その顔があまりにも情けなくて、表情を緩めた



『昼飯代、貸してくんねーかい?財布を落としちまったみたいでなあ。必ず返すからよう』



見た目に似合わず、間延びした話し方だ

タイミング良く、男の腹の虫が鳴った

それに微笑み、結は歩き出す



『パスタは平気ですか?』



『うん?』



『助けてくれたお礼にご馳走しますよ』



すると背中を叩かれた



『いたっ、ちょ、骨折れるっ!』



『恩に着るぜえ、嬢ちゃん』



男は鼻の下をこすりながら、再び結の背を叩いた




信用したから、ご馳走しようと思った訳じゃない

信用してないからそう思った

最初から返って来ないと思っていれば、気にすることでもない

だから結は男に名乗る事もなかったし、男の名を尋ねる事もなかった




人なんて信用できない

だって簡単に裏切るでしょ?







20100306

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