続勧誘




『オーダーです』



『なあ、あの人達また来てる』



カウンター越しに店長がささやく

視線の先には沢田綱吉とその愉快な仲間たち

(無理には言わんて言うたやんけ)

毎日入れ替わりに誰かしらが来て、結を勧誘していた



『閉め出しちゃいません?』



『一応お客様だからね結ちゃん』



店長は苦笑した

暫くすると、人もまばらになってくる

店長は料理道具を片づけ始めている



『もう閉めるの?』



『うん。なんか最近つけられてる気がして。暗くなるとちょっと怖いからね。ストーカーかなあ』



結もメニューを仕舞う



『店長見た目だけはいいですからね』



黙って立っていれば絶対にモテる

事実、店長目当てに来ている女性客も少なくなかった




しかし如何せん、中身が問題なのだ

超が付くほどのドジっぷりで、何もない所でこけるのは当たり前

料理を運べば必ず間違えるし、この前なんてレジを打って、何をどうやったのかレシートが出続けてべそをかいていた



『かわいい子がいいなあ、ストーカーの子。そのまま愛の逃避行しちゃいたい』



『現実の逃避行しないで下さい』



まだ見ぬストーカーに目を輝かせる店長

それを放置して、ボンゴレの客の所に行く



『お客様、本日はまもなく閉店となります』



彼らは立ち上がる

不運にも今日は綱吉が来ていた



『分かった。ねぇ、あの話もうちょっと考えててほしいんだ』



『何の事ですか』



しらっと惚け、会計をする

代金を払いながらも綱吉の勧誘は続いていた



『お釣りになります』



笑顔でお釣りを返しながら



「ええ加減にせえよ。他当たれ言うてるやん」



「だからオレは罠のプロが欲しいんじゃなくて、君が欲しいんだって」



眉を寄せ、息をつく



「わからん。なんであたしやねん」



店長が訝しげにこちらを見た



『ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております』



「もう二度と来んな」



笑顔で真逆の言葉を口にする



『また来るよ』



爽やかに笑うと綱吉たちは出て行った

扉に掛かったプレートを引っくり返して「CLOSED」にし、溜め息をつく

店長の隣で袖を捲り、食器を洗っていく



『じゃ、早く終わらそう』



『食器割らないで下さいね』



『うん、大丈夫』



つるん

言った傍から皿が宙を舞う

ぱし

結が当然のようにそれを受け止め、洗剤を流した



『いやあ、結が来てから食器の赤字が無くなったよ』



『普通はありません』



黙々と作業に没頭していると、隣で同様に作業していた店長がぽつりと呟いた



『結。ここやめないでくれよな』



皿を洗う手を止め、店長の横顔を見つめる



『どうしたんですか、急に。拾い食いはあれほど駄目だと言ったでしょう?あ、まだ妄想の続きですか?』



『それって実は酷いこと言ってるよ?』



苦笑する店長に結も手を動かし始める



『……いつかはやめるかもしれません』



『え?』



今度は店長がこちらを見た

彼には目を向けず、手を動かしながら視線を落とす



『店長はいい人ですから。身の回りに危ないことが起こったら教えて下さいね。助けに行っちゃいます』



冗談めかして微笑む

(たぶんそうなったら、ここでは働かれへん)

彼が狙われる理由は恐らく自分だから



『ま、やめませんよ。私がいなくなったら誰が店長の飛ばすお皿を拾うんですか』



それに店長は再び苦笑を零した







20100306

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