綱吉くんが来てから、数日経った時だった

あたしは庭で猫を見ていた

ツナ、元気かな

ガサガサ

茂みが揺れる

同時に1人の男が現れた

手にはナイフ

「如月結だな。一緒に来てもらう。抵抗すれば容赦はしない」

あたしはその人を見つめて、首を傾げる

「誰の命令?」

そんな恨まれるようなこと、してないと思うんだけど

「お前は黙ってついてくればいい」

伸ばされた手をひょいと避ける

彼はタイミングを計っていたのだろう。

周りには誰もいない

別に構わない

助けてもらうために、ボンゴレを出たんじゃない

自分の身は自分で守る

少しの緊張はあった

何せ初めての実戦だ

小さく息をはいて、肩の力を抜く

男はすっと距離を縮めてきた

遅い

恭弥くんやベルくんに比べると格段に

あたしは逆に近付き、手首をたたいた

女の力なんてたかがしれてる

だからあたしはひたすら関節や神経、人の急所を頭にたたきこんだ

力を必要とせずに、相手に対抗するために

相手がナイフを落とす

それを蹴り飛ばした

まだ油断はできない

武器なんてどこにでも隠せる

その時ベルくんが現れた

「オレらんとこに侵入するなんて、いい度胸じゃん」

ベルくんは手にナイフを持っている

あたしが蹴飛ばしたやつだ

ベルくんが動いた

そう思った次の瞬間には、男の背後にいた

やっぱり速い

負けてるとは思わないけど

男の喉元にナイフを当て、低い声で問う

「誰の差し金?」

「くっ、…言わねえ」

男は頑なにそれを拒む

するとベルくんはもう片方の手でナイフを持ち、男の肩に容赦なく刺した

「ぐぁあっ」

「言わねえなら、こっちにも考えがあるんだぜえ?」

手品のようにまた新しいナイフを取り出す

「があぁ」

「ぐぉお」

「くっ…ぐぅ」

静かな庭に男の呻き声が響く

あたしは動けなかった

目の前の光景に何も出来なかった

男は至る所にナイフが刺さり、血を流している

立っているのがやっとのようだ

「…ふ、ふはは。例え死のうとも、主の事は、言わねえ…」

息も絶え絶えに、しかし男は笑って見せた

「…あっそ。じゃあ、死ね」

ベルくんの腕が滑る

目の前を紅が舞った









男の体が倒れ、その拍子に刺さっていたナイフが深々と食い込む

しかし痛くはあるまい

既にその喉を切り裂かれているのだから

「…うっ」

あたしはその場にしゃがみ込むと、胃の中の物を吐き出した

人の死ぬ瞬間を初めて見た

人の殺される瞬間を、初めて見た

生理的な涙が零れる

気持ち悪いだろうのに、ベルくんはあたしの背中をさすってくれた

そしてあたしは、ベルくんの呼んだお手伝いさんに案内され、顔を洗った後、気を失うように眠った










目が覚めると夜だった

考えるのは、昼間のこと

分かってなかった

人を殺すと言う事を

あんなにも怖いこと

あの優しい人がこんな事をしている

きっと、壊れてしまう

駄目、そんなの駄目

だけどあたしに何が出来るの?

再び忘れかけていた無力感に襲われる

カチャ

ベルくんが入ってきた

何故か頬に絆創膏を貼っている

彼はあたしが起きているのに気付くと、駆け寄って傍の椅子に座った

違和感

しかし理由が分からず首を傾げる

「大丈夫かよ?」

いつものように笑う彼

笑って頷く

ベルくんはそれに小さく息を付いた

あ、分かった

違和感の正体

普段あんなにくっつきたがるベルくんが、触れても来ない

「ベルくん、どうかした?」

「ん?何が?」

「くっついてこないから」

そう言うとベルくんは悲しそうに笑う

「…結さ、見ただろ?オレがあいつ殺すの」

蘇る光景

鮮やかな紅

また気分が悪くなったが、あたしは頷いた

「怖いっしょ?嫌いになっただろ?オレ」

そう言って笑うベルくんは、やっぱり悲しそうだった

あたしはベルくんの手に触れる

「…怖いよ。あんなに簡単に人を殺せるベルくんが怖い」

彼の手がピクッと動く

その手をそっと包み込む

「だけど、もどしちゃったあたしの背中をさすってくれるような優しいベルくんとか、スクアーロくんにナイフ投げて遊んでるような明るいベルくんは好き」

あたしは遠慮がちに彼を抱き締めた

優しく背中をたたく

「大丈夫だよ。ベルくんはベルくんなんだから。王子でしょ。自信持ちなよ」

「…そんなの、言われなくても分かってるし」

離れた時には、彼はいつもの彼だった

「これ、どうしたの?」

絆創膏を指すと、ベルくんは内緒と教えてくれなかった

彼が自室に戻ってから、あたしは考える

優しい彼の事

自分のこれからのこと









20091211

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