倒れてきた女を支える

オレにしては珍しい

いや他人に興味を持つ事自体が、有り得ないような事だ

車で仕事に向かう途中、こいつを見た

雨の中で一人、傘も差さず空を見上げていた

初めて、女を綺麗だと思った

顔は大したことないが、その姿を美しいと思ったのだ

帰り道、1時間経っても、こいつはいた

興味が湧いた

だからオレはこいつに尋ねたのだ

「何をしている」

そいつの視線がオレを捉えたとき、吸い込まれそうだと思った

暗殺を仕事にしているから、オレは今まで恐怖や憎しみの目しか見た事がなかった

だがこいつは真っ直ぐにオレを見て

似ている

そう思った

あのボンゴレ十代目と同じ目で、オレを見た

憐れみも、同情とも違う

九代目のじじいの罪悪感の混ざった視線とも違う

オレという存在を見ていたのだ

何の偏見も、先入観もなく

その目でオレを見たまま、こいつは答えた

「何も。君には何をしているように見える?」

そのまま女は倒れた

体が熱い

この雨の中、何時間いたのか

女を抱きかかえ、車に戻りながら先程の問いに小さく答える

「オレには祈っているように見えた」

そう

空を見つめて、ただ、何かを祈るように








アジトに戻ると、部下が近寄ってきた

「う゛ぉぉおい。遅かったじゃねえかぁ。そんなに手こずったのかあ?」

「うるせぇ、カス鮫」

相変わらずうぜえ鮫だ

「ボスが女連れて帰るなんて珍しー」

「ルッスーリア、こいつ寝かせとけ。オレは寝る」

ベルの言葉も無視し、自室に戻る

何故あそこにいたとか

また後で聞けばいい

後ろでルッスーリアが慌てたような声で叫ぶが、オレは気にせず扉を閉めた









会議を終え、結さんの部屋に向かう

何を言おうかと考えている内に、部屋に着いた

ノックをするが反応がない

寝ているのか

「みゃあ」

中からツナの声と、扉を引っ掻く音が聞こえる

「結さん?入るよ」

一声掛けて扉を開ける

すり寄ってくるツナを抱き上げ、部屋の中に入る

綺麗に整ったシーツ

殺風景な部屋

開け放たれたクローゼットには、何も掛かってないハンガーが寂しく掛かっている

ざわっと嫌な予感がする

元の世界に帰った?

違う

片付きすぎている

そうだ、彼女のものが何もない

机に駆け寄り引き出しを開けるが、出てきたのはボールペン

元の世界に帰ったんじゃない

なら、ここから出て行った…?

「な、んで…」

呆然とするオレの耳に、ツナの鳴き声が入る

「ツナ…。お前の飼い主はどこに行ったんだ…」

ツナが答えるわけもなく、オレの腕の中で毛繕いをしている

その前足に紙が結んであるのを見つけた

慌ててその紙を開く

内容を読んで、ツナは力無く壁に背を預けた

「オレから…離れていくの…?…結さん…」








20091208

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