それからしばらく平穏な日々が続いた あれからダンは現れなくなった 機嫌良く鼻歌を歌いながら歩いていると、山本さんが遠くに見えた 向こうも気付いたらしく大きく手を振っている あたしも振り返した時だった 黒塗りの車があたしと山本さんを遮るように止まる 中から人相の悪い男が出てくると同時に、取り囲まれた 今は夜 黒い集団は人目に付かない 「如月結だな。一緒に来てもらう」 強行突破を試みたが、多勢に無勢、布で口と鼻を押さえられる 薬品の匂い…? そうする内に思考は闇に沈んだ 前にツナが一週間程いなくなった時期があった どんなに探しても見つからなかったのに、一週間後、彼はひょっこり自室に現れた 何でも異世界に行ってたらしく、そこで世話になったのが結という女の子 帰ってきたツナは、それまでと雰囲気が変わっていた 上手く説明は出来ないが、深みが増したというか 直感的にその「結さん」て人の影響だと思った この10年どんなに薦められても、恋人や婚約者を作らなかったのは、彼女を忘れられなかったから それが分かったのは「結」が会議室に突然現れた時だ ツナのあんな嬉しそうな顔は今まで見た事がない あまり話したことはないが、いい子だと分かる その子が今日前に見えたから手を振った 彼女も手を振り返してくれたが、すぐに黒塗りの車に遮られ、見えなくなる そして車が再び発進した時、そこに結ちゃんはいなかった ただ彼女が掛けていた鞄だけが転がっていた 20091206 [*前] | [次#] ページ: 戻る |