「ただいま。ごめん友達と話してたら遅くなって……綱吉くん?」

玄関に上がり、彼の姿を探す

家中探すがどこにもいない

まさか、と嫌な想像が脳裏をかすめる

ガチャと音がして、玄関が開いた

「ただいま」

綱吉くんの声だ

ほっと息をつく

元の世界に帰ってしまったのかと思った

「おかえり。散歩?」

「うん。ツナいる?」

あたしはソファの上を指差した

ツナは気持ちよさそうに丸くなっている

「今からご飯作るから、ちょっと待ってね」

台所に向かい、買ってきた食材を出す

「あ、オレも手伝うよ」

綱吉くんがもう一つの袋を持とうと手を伸ばした

お願い、と振り向いた時

「…え?」

「綱吉…くん?」

あたしは彼の元に駆け寄った

彼は不思議そうに自分の手を見つめている

すり抜けたのだ

袋を持とうとした手が

彼はあたしの手をつかんだ

「よかった。結さんはつかめる」

そして片手であたしの手をつかんだまま、再び袋に手を伸ばす

スッ

「これは駄目か…」

彼の瞳が揺れる

「結さん、オレ帰るみたいだ」

静かに紡がれた言葉

それをあたしは理解する

彼がいなくなってしまう

「…良かったね。やっと帰れる」

ぎこちなく笑みを浮かべる

あたしはちゃんと笑えてる?

それに綱吉くんは一層悲しそうに笑った

「今まで、ありがとう。結さんのこと忘れないから」

それは別れの言葉

二度と会えないあたしへの言葉

笑顔で見送らなきゃ

そう決めた筈なのに

「っ、いかないでっ!」

出てきたのは子供のような我が侭

相手を困らせるだけ

だけど、あたしの本音だった







すごく、たいせつなひと

優しく包んでくれる人

君がいたから、オレは楽しかった

もう帰るのだと言ったとき、君はやっぱり笑って、「良かった」と言った

予想はしてたし覚悟もしてた

だけど実際に言われると悲しくて

君にとってオレは拾ってきた猫のようなものだったのだろう

あんなに嫌いな勉強をやろうと思ったのは、君に褒めてもらいたかったから

あんなに嫌いな運動に付き合ったのは、君が楽しそうに笑うから

オレは君の笑顔が好きだ

君の優しさが好きだ

君の、全てが好き

だから君が笑えるように、オレも笑って行こう

「結さんのこと忘れないから」

不意打ちだった

いつも君は笑っていて

年の割に落ち着いた雰囲気を持っていた

どんな事でも優しく受け止めてくれた

「っ、いかないでっ!」

だから不意打ちだった

子供じみた君を初めて見た

いや、オレは君の事を全然知らなくて

本当はもっと知りたかった

もっと一緒にいたかった

だけどそう言ったら君は困るだろうから

笑って別れの言葉を口にした

それ、なのに

「っ、」

つかんでいた腕を引いて、彼女を抱き締めた






20091206

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